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小休止ー夕方のあいさつー

本のことから離れて、日常の話を少し。

 夕方のあいさつって、悩ましい。
「こんにちは」か「こんばんは」か。

16時は「こんにちは」でいいだろう。おやつの時間も過ぎたばかりだし。
17時はちょっと迷うけれど、まだ「こんにちは」かな。仕事から解放されてウキウキ気分もあるので、まだ夜にしたくない。
18時。本格的に迷いだす。季節によってはまだ明るいけれど時間的には夜に近いし、でも明るいんだからお昼に属する時間?どっちを言うべき?迷った末にすれ違いざまに小声で「ごにょごにょわ~」とどっちにもとれるもにょもにょ声でごまかしがちになる。

 悩む要因としては、あいさつの基準を時間とするか空の明るさにするか、自分の中で明確になっていないからだろうと思う。気分によるところもあるのかもしれない。空気の色がまだ昼だから、とか詩的なことを考えてしまう。

 悩ましい夕方のあいさつ問題だが、ある時、時間と明るさ以外の基準があることに気がついた。
前回登場した接骨院の先生である。
 
 私はいつも仕事帰りに接骨院に行く。時間は迷いの時間、18時前後。
重たいドアをくぐって受付に向かうと、先生がにこりと微笑んで私に言う。「こんにちは~」
今は「こんにちは」の時間であるらしい。
またある日、看板の灯にほっとしながら中に入ると
「こんばんは~」
今は「こんばんは」の時間であるらしい。

 観察してみると、先生は私の背後にあるドアの外の明るさと時間との関連を瞬時に結びつけて「こんにちは」か「こんばんは」かを本能的に判断しているように思われる(あまりに迷いなく言うので本能なんだろう)。
先生が判断してくれるので私は迷わずおうむ返しに返すだけでいい。
「こんにちは」
「こんばんは」
ああ、迷いのないあいさつってなんて気持ちがいいんだろう。

 先生のあいさつは、季節の基準にもなる。
「最近までこんにちはだったけど、きのうはこんばんはだったから、日が短くなってきたのかな」
先生のあいさつは季語にもなるかもしれない。
 先生が「こんばんは」って言ったから今日から季節は秋に突入
サラダ記念日みたいに短歌にしたっていい。

 接骨院を出るころには19時前になっていて、あたりも暗く、すっかり「こんばんは」の時間になっている。
私と入れ違いに入ってきた作業着姿の男性に、先生があいさつするのが聞こえる。
「おつかれさまです~」
そのパターンもあるのか。

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