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事業承継の危機 ~見性の智慧が導く本質の発見~
経営危機を乗り越える ~経営者のための仏教的智慧~ ②(全12回)
後継者は本当に見つからないのか。
事業承継の本質は、単なる技術や資産の移転ではありません。
古来の智慧「見性」が示す、真の事業価値の発見と継承について考えます。
迷いの中の気づき
「この会社の本当の価値は何なのか」
創業50年の製造業を率いる経営者は、深いため息をつきました。後継者候補との面談を重ねるたびに、違和感が募っていったのです。優秀な人材との出会いはありましたが、どこかしっくりこない。財務諸表や事業計画書では語り尽くせない何かが、見えていないのではないか。
仏教における「見性」とは、物事の本質を直観的に見抜く智慧を意味します。それは表層的な現象や数値を超えて、真の価値を見出す力なのです。
見性の智慧が照らし出す承継の本質
1. 価値の再発見
多くの経営者は、事業承継を「既存の価値の移転」と考えがちです。しかし見性の智慧は、承継のプロセスこそが、事業の本質的価値を再発見する機会だと教えています。
ある老舗旅館の承継では、設備や顧客リストといった表層的な資産ではなく、「もてなしの心」という無形の価値こそが本質だという気づきが、世代を超えた共感を生み出しました。
2. 伝統と革新の調和
見性は、単なる現状維持でも、急激な変革でもない、本質を踏まえた進化の道筋を示します。
老舗の醸造メーカーでは、後継者が伝統的な製法を学ぶ中で、その本質が「素材との対話」にあることを見出しました。この気づきが、伝統を活かした新商品開発という革新をもたらしたのです。
3. 継承者との共鳴
事業承継において最も重要なのは、経営の本質についての深い理解の共有です。見性の智慧は、その共鳴のプロセスを導きます。
「最初は経営指標の改善だけを考えていた後継者が、従業員との対話を重ねる中で、当社の強みが『技術を大切にする文化』にあることに気づいたのです」
ある機械メーカーの経営者は、その時の変化を鮮明に覚えています。
本質を見抜く実践的アプローチ
見性の智慧を事業承継に活かすには、以下の実践が有効です。
まず、日々の業務の中に潜む「当たり前」を丁寧に見直します。長年の経験で無意識化している価値こそ、事業の本質を形作っているかもしれません。
次に、様々なステークホルダーとの対話を通じて、自社の存在意義を多角的に探ります。取引先、従業員、地域社会―それぞれの視点が、新たな気づきをもたらします。
そして、発見した本質的価値を、現代的な文脈で再解釈します。伝統は、新しい時代に合わせて進化することで、より深い価値を生み出すのです。
プラスチック成形の技術を持つ中小企業では、この手法で承継の危機を乗り越えました。
「職人技と呼ばれていた技術の本質を、デジタルデータとして可視化する試みを始めました。すると、若手社員の関心が高まり、自然と承継の流れが生まれたのです」
実践のために
事業承継の課題に向き合うとき、以下の問いを立ててみましょう:
自社の本質的価値は何か?
その価値はどのように進化できるか?
承継者とどのように共鳴できるか?
次回予告
次回は「市場激変の危機」において、「随順」の智慧が教える適応と変革について解説します。市場の激しい変化に対して、いかに柔軟に、そして力強く対応するのか。その真髄に迫ります。
経営危機を乗り越える ~経営者のための仏教的智慧~ ③(全12回)
市場激変の危機 ~随順(ずいじゅん)の智慧が導く適応と進化~
本シリーズは経営判断の新たな視座を提供する連載の一部です。