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自己否定の壁を超える ~肯定(こうてい)の智慧が育む自信~

「経営者の壁を突破する ―仏教の智慧が照らす道―」⑥(全12回)


経営者は常に重要な決断を迫られ、その結果に対して大きな責任を負う立場にあります。

そのため、「自分にはできないのではないか」「自分は適任ではないのでは」という自己否定的な思考に陥りやすいものです。

この内なる不安や迷いは、時として大胆な決断や革新的な挑戦を躊躇させる要因となります。

仏教では、自己の本質的な価値を見出し、それを肯定的に受け入れる智慧を「肯定(こうてい)」と呼びます。

これは単なる楽観や自己過信ではなく、自己の長所短所を含めた全体を深く理解し、受容する姿勢を指します。

経営の現場では、困難な状況に直面するたびに自己否定的な思考が強まることがあります。

例えば、新規事業の失敗や業績の低迷は、経営者としての自信を大きく揺るがすかもしれません。

しかし、肯定の智慧は、そうした経験をも含めて、自己の成長過程として受け入れる視点を与えてくれます。

重要なのは、完璧を求めることではなく、自己の「現在地点」を正しく認識することです。

誰しも得意分野と不得意分野があり、成功と失敗を繰り返しながら成長していきます。肯定の智慧は、そうした人間としての普遍的な特質を受け入れ、それを前提とした上で最善を尽くす姿勢を育みます。

例えば、技術畑出身の経営者が財務面での知識不足を感じる場合、それを単なる欠点として否定的に捉えるのではなく、「技術への深い理解」という強みと併せて、自己の特性として理解する。

そして、必要に応じて専門家の知見を借りながら、自身の強みを活かした経営を展開していく。それが肯定の智慧の実践といえるでしょう。

この智慧を日々の経営に活かすためには、まず「自己対話」の習慣を持つことが重要です。

一日の終わりに、その日の判断や行動を振り返り、自己の特性がどのように発揮されたか、また何が課題として残されたかを冷静に見つめ直す。この習慣を通じて、自己への理解と受容が深まっていきます。

肯定の智慧は、リーダーシップの質も大きく向上させます。

自己を深く理解し、受容している経営者は、他者の特性も同様に理解し、受容することができます。それは、多様な人材の強みを活かし、組織全体の成長を導く力となるのです。

また、この智慧は、困難な状況下での決断力も支えてくれます。

完璧な判断は存在しないことを理解した上で、その時点での最善を尽くす。たとえ結果が思わしくなくても、その経験を次への学びとして受け止める。そうした態度が、経営者としての持続的な成長を可能にします。

ただし、肯定の智慧は「現状への満足」や「努力の放棄」を意味するものではありません。

むしろ、自己の現状を正しく理解することで、より効果的な成長の方向性が見えてきます。自己の課題に向き合いながらも、それを否定的にではなく、成長の機会として捉える。それこそが、この智慧の本質といえるでしょう。

実践的なアプローチとして、「感謝の日記」をつけることも効果的です。日々の経営の中で、自己の判断や行動が組織にもたらした positive な影響を記録していく。

この習慣は、自己肯定感を高めるとともに、自己の強みをより意識的に活かすヒントを与えてくれます。

次回は「孤独の壁を超える」をテーマに、経営者特有の孤独感を克服し、より豊かな関係性を築くための智慧について探っていきます。

「経営者の壁を突破する ―仏教の智慧が照らす道―」⑦(全12回)

孤独の壁を超える ~同体(どうたい)の智慧が結ぶ絆

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