見出し画像

事業承継の成功率を5倍上げる8つの要諦~付嘱:継承を確かにする智慧~

不滅の経営 ~300年企業に学ぶ12の智慧~(全12回) 第10回

事業承継は、多くの企業にとって最大の経営課題の一つです。特に、長年培ってきた経営の理念や価値観を次世代に確実に引き継ぐことは容易ではありません。

300年以上続く企業は、どのようにしてこの課題を克服してきたのでしょうか。

創業360年の老舗陶磁器メーカーBB社では、「100年先を見据えた承継」という考え方を実践しています。

同社の特徴は、事業承継を単なる経営権の移転ではなく、「未来への価値の橋渡し」として捉えている点にあります。

「承継とは、バトンを渡すことではなく、共に次の時代を創ることです」とBB社の会長は語ります。「重要なのは、過去の成功体験を伝えるだけでなく、その背景にある考え方や価値観を共有すること。それがあれば、時代が変わっても正しい判断ができます」

同社では、以下の8つの要素を重視した承継プログラムを実施しています:

  1. 価値観の継承

  • 経営理念の深い理解

  • 判断基準の明確化

  • 暗黙知の形式知化

  1. 実践的な学び

  • 現場経験の重視

  • 失敗からの学習機会

  • 決断力の養成

  1. 関係性の構築

  • ステークホルダーとの信頼関係

  • 従業員との絆づくり

  • 地域社会との連携

  1. 技術・技能の伝承

  • 核心的な技術の特定

  • 段階的な習得プロセス

  • 革新への適応力

  1. 経営基盤の強化

  • 財務体質の改善

  • ガバナンスの確立

  • リスク管理体制

  1. 組織力の向上

  • 次世代幹部の育成

  • チームワークの醸成

  • 変革への対応力

  1. 時間軸の設定

  • 計画的な準備期間

  • 段階的な権限移譲

  • 柔軟な調整機能

  1. 支援体制の整備

  • 専門家の活用

  • メンター制度の導入

  • 相談体制の確立

創業330年の老舗酒造メーカーCC社では、この考え方をさらに発展させ、「共創型承継」というモデルを確立しています。

現経営者と後継者が5年間かけて共同で経営にあたり、その過程で経営の機微を伝えていく手法です。「教えるのではなく、共に考え、共に決断する中で本質を伝える」という考え方が基本にあります。

仏教でいう「付嘱」の考え方、つまり「重要な教えを確実に託す」という智慧が、これらの取り組みの根底にあります。

老舗の建築材料メーカーDD社では、承継を「100年に一度のイノベーションの機会」と位置づけています。

後継者の新しい視点を活かしながら、伝統的な価値観を現代に再解釈する取り組みを展開。その結果、伝統工法を活かした環境配慮型建材の開発に成功するなど、新たな価値創造を実現しています。

これらの企業に共通する承継の特徴は以下の通りです:

  • 長期的視点での準備と実行

  • 価値観の深い理解と共有

  • 実践を通じた学びの重視

  • 関係者との丁寧な対話

  • 変革への積極的な姿勢

特に注目すべきは、これらの企業が承継を「点」ではなく「線」として捉えている点です。特定の時点での交代ではなく、継続的な価値の創造・進化のプロセスとして承継を位置づけているのです。

事業承継の本質は、単なる経営権や財産の移転ではありません。企業の価値観と可能性を次の時代に橋渡しし、新たな成長の機会を創出すること。それが、100年先を見据えた経営の基盤となるのです。

次回はコチラ。

不滅の経営 ~300年企業に学ぶ12の智慧~第11回:
地域・社会との共生力を高める経営の実践~利他:共生を実現する智慧~

いいなと思ったら応援しよう!