見出し画像

孤独の壁を超える ~同体(どうたい)の智慧が結ぶ絆~

「経営者の壁を突破する ―仏教の智慧が照らす道―」⑦(全12回)


経営者という立場は、時として深い孤独を伴います。最終的な判断を下す責任、社員の生活を支える重圧、事業の成否を左右する決断の重み。

これらは、他者と十分に共有することが難しい経験であり、多くの経営者が「孤独」という壁に直面することになります。

仏教では、すべての存在が深く結びついているという真理を「同体(どうたい)」と呼びます。

これは単なる表面的なつながりではなく、互いの存在が不可分に結びついているという深い認識を指します。

経営の現場では、この孤独感が判断を硬直させたり、視野を狭めたりすることがあります。

「すべては自分で決めなければならない」「誰にも相談できない」という思い込みが、かえって経営判断の質を低下させてしまうのです。

同体の智慧は、こうした孤独感から解放される視点を与えてくれます。例えば、困難な経営判断に直面したとき、その決断が社員やその家族、取引先、顧客など、多くの人々との関係性の中で行われていることを深く理解する。

この認識は、決して一人ではないという確信と、より広い視野からの判断を可能にします。

また、この智慧は、経営者と社員との関係性も深めます。表面的な上下関係を超えて、共に組織を成長させる「同志」としての絆を育む。

そうした関係性の中では、より率直な対話が生まれ、組織全体の智慧を活かした経営が可能となります。

実践的なアプローチとして、定期的な「対話の場」を設けることが効果的です。

これは単なる報告会議ではなく、経営者自身の思いや悩みも含めて共有する機会です。もちろん、すべてを開示する必要はありませんが、適切な範囲で本音の対話を行うことで、組織内の信頼関係は着実に深まっていきます。

同体の智慧は、他の経営者とのネットワークづくりにも重要な示唆を与えます。

業界や規模の違いを超えて、経営者として共通する課題や悩みを共有する。そうした対話を通じて、新たな視点や解決策が見えてくることも少なくありません。

特に、若手経営者にとって、先輩経営者との対話は貴重な学びの機会となります。経営の経験則は、書物だけでは十分に伝えることができません。

実際の経験に基づく対話を通じて、より深い知恵が受け継がれていくのです。

また、この智慧は、危機的な状況での対応にも大きな力を発揮します。例えば、業績の悪化や事業の転換期には、経営者の孤独感がより一層強まりがちです。

しかし、そうした時こそ、社員や取引先との深い信頼関係が、困難を乗り越える力となります。

同体の智慧は、家族との関係性においても重要です。経営者としての重責は、時として家族との時間や対話を犠牲にしがちです。

しかし、家族との絆こそが、経営者としての強い基盤となることを、この智慧は教えてくれます。

実践において重要なのは、「聴く」姿勢です。
相手の言葉に真摯に耳を傾け、その思いを深く理解しようとする態度。それは、同体の智慧を実現する具体的な第一歩となります。

また、感謝の気持ちを表現することも大切です。周囲の支えがあってこその経営者としての自分。その認識を言葉や行動で示すことで、より深い絆が育まれていきます。

次回は「組織の壁を超える」をテーマに、部門や立場の違いを超えて、組織全体の一体感を醸成するための智慧について探っていきます。

「経営者の壁を突破する ―仏教の智慧が照らす道―」⑧(全12回)
組織の壁を超える ~融和(ゆうわ)の智慧が生む一体感

いいなと思ったら応援しよう!