次世代リーダーを5年で育てる9つの法則~師資相承:価値を伝える智慧~
不滅の経営 ~300年企業に学ぶ12の智慧~(全12回) 第4回
企業の持続的な成長において、次世代リーダーの育成は最重要課題の一つです。
しかし、経営の真髄を短期間で伝承することは容易ではありません。300年以上存続している企業は、どのようにしてこの課題を克服してきたのでしょうか。
創業450年の老舗酒造J社では、「5年で一人前の経営者を育てる」という明確な育成プログラムを確立しています。
同社の特徴は、技術と経営の両面で、体系的な育成システムを構築している点です。
醸造技術の習得では、まず2年間、現場で杜氏から直接指導を受けます。その後、商品開発チームで1年間の実践を経て、最後の2年間で経営戦略の立案に携わります。
「技術がわかる経営者」を育てることで、伝統と革新のバランスが取れた意思決定が可能になるのです。
一方、340年続く老舗旅館K社では、「観察・実践・対話」という三位一体の育成メソッドを採用しています。
後継者は以下の9つのステップを経て、経営者として成長していきます:
現場観察期(6ヶ月)
全部署の業務を観察し、組織の全体像を把握
ベテラン従業員の仕事ぶりから、暗黙知を学ぶ
お客様の声を直接聞き、ニーズを体感
実践研修期(1年)
各部署でのローテーション勤務
問題解決プロジェクトへの参加
新規サービスの企画立案
経営参画期(2年)
幹部会議への出席
中期経営計画の策定への参加
取引先との関係構築
権限委譲期(1.5年)
特定部門の責任者として経営実践
投資判断や人事決定の経験
危機管理対応の実地訓練
「次世代に伝えるべきは、形式的な手順ではなく、判断の基準となる価値観です」とK社の会長は語ります。
「どんな状況でも、何を大切にして決断を下すのか。その軸を確実に伝えることが、育成の本質です」
仏教でいう「師資相承」の考え方、つまり「師から弟子へ、本質的な教えを直接伝える」という方法が、これらのプログラムの基礎となっています。
創業370年の老舗菓子メーカーL社では、「教える側も学ぶ」という双方向の育成を重視しています。
「若い世代の感性や時代認識は、企業の革新に不可欠」と現社長は指摘します。実際、同社では後継者の提案により、伝統的な和菓子の技法を活かした新商品開発に成功。世代を超えた対話が、企業の進化を支えています。
これらの事例から、効果的な次世代育成のための重要なポイントが見えてきます:
明確な育成目標とタイムラインの設定
技術と経営の両面からのアプローチ
実践を通じた学びの重視
世代間対話による相互理解の促進
価値観の確実な伝承
次世代育成の本質は、単なるスキルの伝達ではありません。企業の価値観と判断基準を確実に受け継ぎ、それを時代に合わせて進化させていく力を育むことにあります。
次回はコチラ。
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