夜空に空いた穴
小学生以来の乗った飛行機は、文字通り夜空を飛んでいる。轟音と少し心地良い揺れが、小さい頃に乗った車のそれと似ている。
時刻は九時前、家族で近くにある回転寿司を食べた帰りだった。満腹になった腹を出し、どれだけ膨らんだかを両親に見せつけながら歩いた。兄は助手席に座りたいらしく、小走りで車に駆け出していた。
車に乗り込んだ僕は後部座席に寝転がり、空しか見えないのに窓の外をじっと眺めていた。頭は母の膝の上だ。走り出した車は、街灯を次々と追い抜いていく。目に入っては流れていく冷たい光だったが、一つだけ流れていかない光があった。月だ。
「なにこれー! お月さんついてくるー!」不思議に思った僕は、それをすぐに口に出した。
「お月さん、せいやくんのこと好きなんやって」
母は、すぐにそう答えてくれた。まだ小さかった僕はそれに納得し、寝転がりながら、家に着くまで月に手を振っていた。
月には不思議な魅力がある。『悲しい気持ちになるから、女の子は、月はあまり見ない方がいい』という言い伝えを、どこかで聞いたことがある。童話のかぐや姫を元に、娘が遠い月に行ってしまうような気がするのだろうか。
でも僕はその反対だ。月を見ると、いつも大好きな人の元に帰りたくなってしまう。愛している人たちのことを思い出させてくれる。僕にとって月は、そうやっていつも夜に安心をくれるものだ。
今、真っ暗闇の海の上を飛んでいる。そして月はやっぱり、僕についてくる。