初生ヒーロー
ヒーローが好きだった。まさしく男の子をしていたから、毎週日曜日は仮面ライダーが始まる時間の8時半ちょっと前に起きて、リアルタイムで見ていた。めちゃくちゃ熱心に見ていた。そんな僕はある日、父からヒーローショーを見に行こうと提案された。
「え?仮面ライダーに会えるの?」
大感動である。握手してほしい。
そんなこんなで、僕はどこかのショッピングモールで開催されたヒーローショーで生ヒーローデビューをしたのだ。当時放送していた『仮面ライダーディケイド』が主役だった。司会のお姉さんが出てきて、挨拶の掛け合いがあった。そしていよいよ生ヒーローデビューが近づいてきた。まだ小さいのに僕の心臓はドッキンドッキンだった。
「みんなでディケイドを呼びましょう!せ〜の!」
「「「ディケイド〜!!」」」
ディケイドは上手のテントから現れた。僕のテンションは最高潮である。初めて目の前にするヒーロー。なんの誇張でもなく、ディケイドの周りがキラキラして見えた。しかし僕は数分後、絶望で泣き出すことになった。
ヒーローショーに出演するのはヒーローだけではない。悍ましい見た目の敵役が登場する。しかもリアルイベントなので、敵は観客の子供達を襲おうと、ステージを降りて近づいてくるのだ。周りの子供達は泣き始めた。前の方に座っていた子供たちは文字通り大泣きだった。でも大丈夫。だってここには。
「待て!」
ディケイドがいるのだ。心配することはなにもない。戦い始めるディケイドを、僕たちは必死に応援する。なぜなら、僕たちにできるのは応援しかないのだから。ただ勝って欲しいと願うしかない。
ところが敵は手強く、ついにディケイドは膝をつき、そしてテレビで吹っ飛ばされるみたいにしてテントに帰ってしまった。おいどうするんだ。ディケイドが負けてしまった。なんてことをしてくれたんだ。ディケイドがいないと、僕らはあの敵に襲われてしまうではないか。僕は泣き始めた。できることがなくなってしまった。徐々に近づいてくる敵に、会場の子供達みんなで絶望していた。
「待て!!」
やっぱりヒーローは最高だ。危ない時は僕らを守ってくれる。ディケイドが負けても立ち上がってくれたんだ。上手のテントがバサリと音を立てた。
「俺、参上」
顔が桃のような形で真っ赤。敵に負けたディケイドよりかっこいいライダーが現れた。あれは「仮面ライダー電王」だ。電王は軽い身のこなしで敵の攻撃を躱し、必殺技を叩き込み、敵をやっつけてくれた。ディケイドが帰ってきたのはその後だ。僕はしばらくディケイドを見なくなった。