僕だって春が好きだ
昨年より一回りも二回りも大きな会場で開演されるのは、かのシェイクスピアが書いた戯曲、「お気に召すまま」だ。「親守り子守り唄」ですっかりS22のファンになった僕は、今年も彼らの世界を覗こうと大学の端っこまでやってきた。この日から気温は大きく下がっていて、ニュースでは師走並みの寒さだと報じられていた。
前回の2ndの公演と違う点がすぐにあった。開演前の影ナレを、登場人物の一人、ル・ボーがやってくれたことだ。僕はああいうのが大好きだから、本編の演出も楽しみになった。幕が上がって物語が始まる。
今年の公演は前回のとは違い、エンタメとしてとても楽しくて、たくさん自分の感情が動いたのが分かった。序盤は物語の展開が進み、それぞれのキャラに愛着を持てた。僕はアミアンズが一番好きだった。本作で一番最初に歌い始めたからだと思う。一発で目を惹かれた。
後半は歌が多く、曲が流れるたびにどんな歌か期待しながら観劇した。タッチストーンの早口演技、あれめっちゃすごいな。
面白いものはすぐに終わってしまう。少しずつキャストが集まり、中央にはマイクとロザリンド。観客の婦人に向けて幾つか話をし始めた。それが終わると次は殿方に。
映画や小説が寂しいのと同じように、演劇だって寂しい。それはどれだけ願っても、僕らはその世界に行けないからだ。誰かを救ったり適当な助言を送ったりすることができない。彼ら彼女らが終わりといった地点が終わりで、その先を見ることも叶わない。でも、だから僕らは物語を楽しめるはずだ。だが今回はたった一度だけ、あの世界と干渉し合うことができた。ロザリンドのスピーチに応え、拍手をしたことだ。
考えてみれば、生物のエンタメを見る僕らは必ず最後に拍手をする。観客が渡したい感動を、その場で受け取ってくれるキャスト幕の向こうにいるからだ。だが今回その拍手を送ったのは、演じた役者だけではなかった。直接ロザリンドやオーランドー、僕がハマったアミアンズたちにも送ることができたように感じた。
春がやってきた4組の新老夫婦とその幸せを願う全ての人たちに、神の祝福を。会場を出た先は、まだ始まりたての冬だった。