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誠はまた、その時に起こった事を淡々と話し出した

女性はフラついた足取りで帰路についていた
誠は女性に気づかれないように距離をとって“ストーキング“を続けた
ただ、その女性は歩くのに精一杯で周囲に気を配る余裕はなさそうだ
「家まで送りますよ」そんな一言を掛けられればいいのだけど
断られたら自分は、自分の家の方へ踵を返すしかなくなる
そんないらない思案が次々と頭の中を通り過ぎていく
バタン
余計なことを考えていると
前方から物音がした
音がした方に目をやると、彼女はその場に倒れ込んでいた
「”クっ”」
緊急事態を目の当たりすると声が全く出ず、勢いのある呼気が声帯を震わす
思考が追いつき、彼女に駆け寄る
「大丈夫ですか?」
彼女前まで辿り着き、ようやく声が出た
「だいじょうぶです」意識があるようで返答は確認できたがどう見ても大丈夫ではない
「救急車呼びますね」ズボンのポケットからスマートフォンを取り出そうとした
「だいじょうぶですって」そういながら弱々しい手で誠の腕を掴んだ
彼女はなんとか体を起こし座る体勢にまでになった
「いや、でも、、」
「いいんです、、なんともないから」彼女は出ない声を荒げた
ゆっくりと立ちあがろうとするが、フラフラとバランスを崩し近くの電柱に体重を預けた。
「ならせめて、家まで送りますよ」このまま彼女を放置するのは危険だそう判断した
でも、彼女は耳を貸さなかった
「放っておいてください。私はだいじょうぶだから」出ない声を張り上げた
彼女は電柱から体を話し歩き出す準備をしている
誠は三度倒れないように精神を張り巡らせて、彼女の横を付き添うように歩こうとした
「やめて、警察を呼びますよ」出せる限りの大声を出し彼女はバッグの中をまさぐり始めた。
その声が聞こえたのか
近くの家のカーテンがちらりと動くのが視界に入る
野次馬か人の気配も感じる
こうなっては立ち去るしかない。
彼女は助けを求めてはいない。この場を離れる。離れて見捨てる。
「無理しないでくださいね」そんなありきたりの声をかけることしかできなかった
電柱から刺す光のせいか。彼女の顔は血の気が全くなく、フランス人形のよりも白く見えた。
誠はそのまま家路に戻るしかできなかった。
振りことはできなかった。

翌日、家の近くで事故があった事を耳にした
内容を見る限りきっと彼女ではない
だからと言って彼女の安否を確認できたことにはならない
「事故」とか「自殺」とか「過労死」とかそんな言葉を耳にするたびに
いつまでも悶々と考えてしまうのだ

「何をするのが正解だったのかなー」全てを話し終え、
いつもの砕けた調子で誠は聞いてくる
「正解はないだろうな」答えた私の言葉にそうだよなーと気のない相槌を打つ
「でも、過ちは犯してない」私はそう続けた本心からそう思っていた
「そうかな、、?」
「ああ」
「でももし、あの人に何かあったら?もし亡くなってたら?俺が見捨てせいじゃないか?もし人の目にビビらないであの人について行ってら。。。」
「やめろよ。」誠の言葉を遮った
誠は暗い雰囲気にしたくないのからか、いつもの笑顔を保とうとしている
だが、明らかに引き攣っている儚い笑顔は逆に彼の心が抱える闇を表面化させている
「考えすぎだよ。その人に何かあったかなんてわからない」
「でもさ・・・考えるよ」
そうだ。ずっと考えていたのだ。考えて考えて、でも答えは出なくて
神に縋ろうにも、縋れず私に泣きつくしかなかったのだ
「確かにさ、その時他に何かできたかもしれないよ。でも、俺たちは人なんだよ。四次元ポケットもなければ、神様みたいに全能の力も持ち合わせてない。自分の事を考えるので精一杯の人なんだよ。」誠の意図に応えたいがために少しちゃかした雰囲気で答えるが、誠にはそれを届けられているだろうか
「・・・あーあ」誠は大きく息を吐いて表情を整えた
「俺も雄牛に化けて、背中に彼女を乗せられたらなー」いつもの笑顔だ
「それはそれで警察沙汰だろ」
「そっか。それはまずいな」誠はケラケラと笑って見せた。
そしてスマホを確認し
「スッキリしたから。そろそろ帰るわ」と慌ただしく支度を始めた
よもふけて22時を周りそうだ
「明日は6限まであるからくるなら19時以降な」玄関で靴を履いている誠にそう伝えた
誠は一瞬固まって、満面の笑みを浮かべ
「おう、また明日な」と言葉を残し勢いよく玄関を開けて出て行った

誠はまた彼女に会えるだろうか
誠の居座りを阻止計画が実現するのはまだ先かもしれない


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