11月12日~11月18日 先生さようなら+トライアウト
「第一巡選択希望生徒…」
また、この季節がきてしまった。クラスの日陰ものにとっては最悪の時期である。
5年前、がらりと国の教育方針が変わった。その頃、インド、タイ、ベトナムなどのアジア新興国が若い労働力を武器に台頭してきており、さらに以前よりは衰えたが中国の勢いも相変わらず強かった。それにより、アジアでの日本の影響力は年々下降し、日本の首脳陣は頭を抱えるばかりであった。そこで、世界との競争力をつけるためがらりと日本の教育を変え、徹底した社会での実践力の養成に力が入れられた。政府としても苦渋の決断であった。
各教科の学習内容は洗練され、心理学、会計学、地政学、量子力学、行動経済学などの要素も組み込まれたものに改正された。公立学校では競争力を煽るため、小学校から知能・運動・芸術、この三分野の全生徒のランキングの貼りだしが校内で行われた。また先生の評価制度も変わり、三分野のクラスの総合成績ランキングにより、昇給するかどうか査定されるようになった。さらに、先生は生徒からも評価され、クラスの4分の3以上の賛成があれば解任要求も行われる。本当にひどい時代になったもんだ。日本人の和の心はどこにいったのだろうか。
そして、もう一つ新しく変わった制度が”公開クラス替えドラフト”だ。児童生徒一人一人が、自分の現状の実力を認める勇気を持つ精神力を養うことを
目的として採用された。
「第二十巡選択希生徒…」
知能・運動・芸術、どの分野も弱く、プレッシャーによりすぐお腹が痛くなる僕はどのクラスからも当然指名されず、先生たちの最後の逆抽選によってどこかのクラスに仕方なく入れられていた。本当の姿を知らずに…
僕は成績面では何をやってもだめだったが、一つだけ得意なものがあった。圧倒的な政治術だ。根回し、裏工作は教職員含めて誰にも負ける気がしなかった。だから、気に入らない担任は類まれなる権謀術で何人も解任に追い込んだ。
それから時は経ち、オレは必死で努力を重ね短所を克服するとともに長所を伸ばし続け、今は与党の幹事長まで昇りつめている。
「さぁ、今日はどの先生方にさようならを伝えようかね。」
そうつぶやきながら腕を叩き、彼は与党に入ろうとすり寄る若手議員どものトライアウトに向かった。彼の体は、”政界の超獣”たる禍々しい覇気に覆われていた。