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【週刊消費者情報】 ビッグモーター問題のゆくえ
今から半世紀ほど前に書かれた論文「レモンの市場:品質の不確実性とマーケット・メカニズム」は、アメリカの経済学者でジョージ・アカロフによるものです。
そう、十数年前に受けた消費生活関連の資格試験にこの「レモン市場」が出題されていました。市場と消費は不可分の関係ですから、件の試験対策では欠かせない分野なんですね。
買い手の無知につけ込む不健全な市場
さて「レモン市場」についてウィキペディアにはここ書かれています。
「レモン市場とは、経済学において、財やサービスの品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことである。」「『レモン』はアメリカの俗語で質の悪い中古車(レモンカー)を意味する。中古車のように、実際に購入しなければ真の品質を知ることができない財が取引される市場は、悪質な(レモン)ばかりが流通するためレモン市場と呼ばれている。」
そして、その問題点についてこう指摘しています。
「レモン市場では、売り手は取引する財の品質をよく知っているが、買い手は財を購入するまでその財の品質を知ることはできず、情報の非対称性が存在する。そのため、売り手は買い手の無知につけ込んで、悪質な財(レモン)を良質な財と称して販売する危険性が発生するため、買い手は良質な財を購入したがらなくなり、結果的に市場に出回る財はレモンばかりになってしまうという問題が発生する。(以下、略)」
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たしかに、走行距離数を示すメーターを巻き戻して、実際よりも少ない距離に見せかけたり、事故車なのにそうではないと偽って販売したり・・・中古車業界にはこうしたトラブルがこれまでにもあったようです。しかし、売り手自ら顧客の車に傷をつけて保険金を不正に請求していたという話は聞いたことがありません。中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題は現在、金融庁はじめ関係省庁が調査中とのことですが、顧客保護がどの程度図られるか注視したいところです。
そういえば2年前の今頃、トヨタ系販売会社で6500台超の不正車検の問題が発覚しました。ディーラー車検はうま味(儲け)がいっぱいということですから、ついつい目先の利益に走ってしまった、ということなのでしょう。あんなに大きな会社でもそんなことがあるんですね。当時、みんなおどろきました。
無知につけ込むレモン市場もあこぎですが、なにも知らない顧客を欺くのはこれまたこの上ない悪事で、どっちもどっち、罪深い行為に違いありません。
消費者の審判はいかに
ビッグモーターをめぐる一連の問題に対し、朝日新聞は社説で(この会社の存続は)「消費者の審判に委ねられていると言うしかない」と書いていました。しかしこの間、関係する損保会社や銀行団、信販会社や広告通信社など、多くの企業は取引を解消する方向で動いているようです。ですから、「消費者の審判」を待つまでもないのかもしれません。とはいえ、そうこうしているうちに、不正があったことを忘れてしまう恐れが、消費者にないとはいえませんね。
編集室 原田修身
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