巨大スラッグ魔女っ娘丸吞み【黒魔女捕食篇①】
照明を落とした相模与野市市長室の窓際に立ち、首都防衛軍の大佐を兼務する相模与野市市長が呟く。
「アマゾン二人の御登場だ。重役出勤御苦労様ってとこだな」
その言葉は誰に対してということもなく発せられたものだったのだが、彼の背後の応接セットに就いていた女性の副市長がそれに応えた。
「魔導師たちの魔力も彼女たちの体力にかかっています。コンピューターゲームのように、魔力、体力、それぞれべつべつというわけにはいきません。出動前の消耗は極力控えさせたほうがいいでしょう」
とそこへ、神奈川県警からの出向組の尉官のうち、中尉だったか少尉だったか、どちらか若いほうが割って入り、あとは彼らともう一人、元自衛官の大尉を交え、混戦状態へと入っていった。
「そうはいってもガソリンだってあとどれくらい保つのかどうか。ジープでおで迎えする必要が本当にあるんですか?」
「でも道路だってズタズタですよ。女性の胴ほどもある蔓草が、ウネウネ生えてる。花の部分にヘチマかナスみたいな実に口がついたヤツがあって、食虫植物というか、なんというか……。サイズ的には食人植物なんですがね」
「人的被害はでていないようですが……」
「いまそんな統計が当てになるのか」
彼らのほうへ向き直った市長兼防衛軍大佐が手を振ってそれを収めた。
「魔導師たち二人があがってくる。第一会議室だったな。私たちも、彼女たちより先におりていたほうがいいだろう」
市長兼大佐。元陸上自衛隊一尉の大尉。副市長兼少佐。揃いも揃ってすべて虚しい肩書きだった。異世界から溢れてくるモンスターたちに対抗する二十代前半の魔女二人、もとい、魔導師二人を、〝お待たせ〟するわけにはいかない立場なのだ。
西暦二〇二四年七月一日──。首都東京から観て関東より南、そして北の日本は突然消失した。異世界の出現だった。のちに世界融合などというもっともらしい言葉が案出されたが、その原因は未だ解っていない。とにかく関東の南の先はトルトキアという絶対主義体制を敷く前近代的帝国で、南の先はまさに、魔王が統べる王国だった。
電波通信、そしてネットは切れていた。
自衛隊と在日米軍の一部とが急遽首都防衛軍として再編されたが、その組織チャート上の異例の素早さとは裏腹に、異世界に関わる出動が防衛出動なのか災害出動なのかといったことで揉めた。またそんな状況下での保留つき前線からなぜか、〝火薬がしけっている〟という珍妙な報告が、それでも現場当事者たちからの悲鳴とともに入ってきた。要するに火器が使用不能だった。
その間の事情については市長兼大佐より元一尉の大尉のほうが詳しいだろう。彼はいま、様々な場所で繰り返されたブリーフィングがゴチャ混ぜになった記憶を、回想している。三階の会議室へと向かう照明が落ち、壁に無数のヒビが入った市庁舎の廊下を歩きながら……。
たとえば、世界融合の衝撃のため倒壊した瓦礫の山を背景に、小太りの子供のような〝人影〟が映ったパワポ画像があった。色が飛んでいて不鮮明だったが、確かにそれは、緑色の禿頭をしていた。誰かの声が割って入る。
『ゴブリンですね? まさに……』
『イヌのような頭部をして、ところどころ、ウロコなのかなんなのか、表皮が角質化したような部分がある個体もいます。いま旧科警研のほうにサンプルがあるのですが……』
『コボルトだ』
『……ですな』
『ザコですな』
『……ですが、人間相手のナイフ・コンバットとは勝手が違っていまして、頸なども太くて……』
『サスマタが案外有効だそうだな?』
『現在、槍部隊、弓部隊を編成しているところです』
しかし、南部でも北部でも、首都防衛軍の劣勢は明らかだった。
とそこへ救世主たちが現われた。市長兼大佐がいうアマゾンたちだ。元一尉の大尉が彼女たちの姿を始めて観たのは、プロジェクター上ではなくリアルなブリーフィングルームの一室でだった。そこで三人の魔導師たちに引き合わされ、彼は絶句した。
(……こっ、子供じゃないか!)
そのうちもっとも年少らしい一人は、ある私立中学のブレザーを着ていた。まるで社会見学にでもきているかのように……。ちなみにいまから会うアマゾン二人は、二十三歳と二十四歳だ。再度どこかで訊いたブリーフィングの声──。
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