無限に美味しいワケギ
これね、お母さんの最後の晩餐にする
と、母は言う。
ワケギを細かく切って出汁醤油をかけまわし、細ぎりにしたちくわ(か、桜えびか、しらすか、卵黄)を添えたもの。
秋の味覚であり、春先の味覚でもある。
「でも、こんな美味しくて精のつくものを食べたら、きっと元気になっちゃうと思うのよね」
と母は笑う。そのくらい好きなんである。私も大好きだ。
今年の夏は暑かった! 父が植えた秋野菜にはどこからか虫がとっついて食べ散らかしてしまった。いつもの年ならば、春菊、ほうれん草、タアサイ、カブ、大根、野沢菜などが整然と成長していて、霜が降りないうちにとせっせと収穫するのに、今年は本当に少ない。
でも、ワケギは元気にビンビンと育っている。左手でぐっとつかめるだけつかみ、ハサミで根本から切る。こうしておけば、また再生する。
細かく刻み、薄めためんつゆ(だし醤油を作るのは面倒なので)をかける。
これをどんぶりいっぱい作り、カレースプーンで白飯にぶっかけて食べると本当に美味しい。ネギほどきつい味ではなく、食感もやわらかい。独特の風味がある。ああ、ワケギが無事でよかった!
と思っているのは家族では私(と娘)だけである。
「また始まった……」という顔で見られる。娘は美味しさが分かってきたらしく、ごはんにのせてぐいぐい食べるが、男2人(夫と息子)は「何がいいんだか」という顔をしている。
まあ、2人とも納豆や冷奴にはかける。鶏の唐揚げにもかける。便利だ、重宝するとは言う。
でもそれは、「薬味」という食べ方であって、おかずとしての食べ方ではない。
だめかね。こんなに美味しいのに。
正直に言えば、実家でもこの食べ方を愛していたのは、母と私と妹だけだった。祖父は食べなかった。祖母はワケギを「ぬた」にするのを好んだ。子どもは「ぬた」は食べませんよ、おばあちゃん。
父は食べる。食べるけれど、「なんで、このうちの女どもはこういうものが好きなんだ」とあきれていた。
他にも美味しい食べ方はある
畑にビンビン生えているのだから、他にも使わない手はない。
ざく切りにして肉と炒めても美味しい。
チヂミ風にして食べてもいい。
細かく切って卵焼きに混ぜるのもいい。
細かく切って冷凍にもしておこう。
寒くなれば秋のワケギのシーズンはおしまいである。
春先にまた食べる。暖かくなるにつれ、ワケギはどんどん大きくなり、そのうち倒れてしまう。そうなったら春のワケギのシーズンもおしまいだ。
球根も美味しい
父はワケギを掘りとって球根を保存する。また秋に蒔く。
大量に収穫できるから、全部保存する必要はない。バケツ半分ほどもらう。
皮をむいて熱湯にさっといれてから瓶に入れ、らっきょう漬け用の甘酢で漬ける。
らっきょうの代わりになる。カレーに添える。『人生フルーツ』の英子さんみたいにみじん切りにしたのに鰹節をかけて、ごはんと一緒に食べてもおいしい。
子どもたちはこれを使ったタルタルソースが好きだ。
みじん切りにしてマヨネーズで和える。魚のフライや鶏むね肉の天ぷらに添える。絶品です。
ちなみに、ちっちゃなワケギの球根のみじん切りには、ぶんぶんチョッパーが欠かせない。
「タルタルソースって本当はどうやって作るんだっけ」「卵とマヨネーズとたまねぎじゃない?」「じゃあ、これ、マヨネーズしか材料かぶってないじゃん」「でも美味しいからいいんじゃない?」という会話をすることになる。
ワケギ球根のらっきょう酢漬けを食べ終わると、漬け汁が残る。
これとしょうゆで手羽中と卵を煮る。手羽中が柔らかくなる。
ほーら、ワケギは無限に美味しいでしょう?
でも、やはり、秋に食べる、ワケギのめんつゆあえが一番美味しい。