■AUTOMAGICイズム■ 第二章・カスタム用パーツの量産化とその功罪
■一部の「好きモノ」だけの楽しみだったカスタムは「純
正パーツ流用カスタム」によって一気にポピュラーに
なった。その中で重要な役割を担ったのがオートマジッ
クのフロントオフセットスプロケットだった。カスタ
ムパーツの量産化はブームの成長に貢献したが、一方
でコピー、模倣という罪を生み出すことになった。
1980年代のバイクブーム、中でもレーサーレプリカブームを通じて、ブレーキやホイール、スイングアームなどの純正足周りパーツが著しくグレードアップしたことは、多くのバイク好きが記憶しているはずだ。ZやCB、カタナなどの絶版車をモディファイする際、ヤマハFZR1000やスズキGSX -R1100用純正部品は、当時としてはリーズナブルでハイスペックなカスタムマシンを製作するための絶好の素材だった。
公認車検が必要だった当時、メーカーのお墨付きを生かした様々なメリットがあったため、純正流用カスタムはそこから盛り上がっていたのだが、絶版車に太いリアタイヤを装着する過程で生じた問題が「チェーンラインのズレ」である。
ノーマルが110~130㎜程度のZ1に150~160㎜のタイヤをホイールごと装着する際、タイヤセンターと車体の中心線を合わせると、タイヤの左側面は間違いなくドライブチェーンと干渉する。
それを回避するため、チェーンライン優先でセットすれば、タイヤは車体中心から右にオフセットする。
当時はそのズレに目をつぶってカスタムマシンを製作するショップも少なからず存在した。しかしオートマジック開業当初からフレームの測定や修正をする中で、僕は車体の中心線やそれと直交するピボットシャフトがどれほどマシンの操縦性に影響を与えるかを追求していた。
同時にディメンションとトータルバランスの重要性も理解していたから、太いタイヤを装着するには車体センターを無視するなんてできなかった。
これに対して、第一段階として実践したのが、Z1の純正ドライブスプロケットの歯を削り落として、そこに他機種用スプロケットのスプライン部をくり抜いた歯の部分だけを溶接して、チェーンラインを外側に移動させる溶接スプロケットだった。これには太いタイヤの干渉を逃がすと同時に、他機種用の530スプロケットの歯を溶接することでチェーンサイズを変更できる利点もあった。
そして、溶接スプロケットの第二段階として誕生したのがフロントオフセットスプロケットである。純正流用カスタムが盛んになれば、必然的にチェーンラインを合わせる作業が増え、溶接スプロケットでは効率が悪く、専用部品が必要になるのは明らかだった。
そこでショップ、個人のいずれもがつまずきそうなポイントに対応する部品を公開し、なおかつ市販化してしまおうと考えた。本来はショップ独自で編み出した要領は秘密にしたい部分なのだが、オートマジックではカスタムというバイクの楽しみ方をブームを超えた文化として認知させてビジネスとしたかったのだ。
【新たな発想を実現するには自ら考え、手を動かす必要がある】
そうはいっても、街のバイクショップの話に、大メーカーが簡単に乗るはずもない。我々のようなバイク好きには当たり前の話だが、300㎏ 近くの負荷を200㎞/h以上のスピードまで運ぶバイク用スプロケットは歯車製造メーカーにとっては相当にシビアで、さらに当時はバブル経済でもあったため、小口で小ロットの仕事を引き受けてくれるメーカーはなかなか見つからない。
現在のようにインターネットもなかったから、全国のタウンページを取り寄せて歯車を製造するメーカーや工場に片っ端から電話を掛けまくった。そんな中でようやく巡り会ったメーカーが、偶然にもバイクメーカー向けのスペシャルスプロケットの製造実績があり、我々のオーダーを引き受けてくれることになった。
ただし、製造を委託するには我々自身がその寸法や形状を指定し、その根
拠としてさまざまな検証を行わなくてはならない。「太いタイヤを入れるため」という目的に対して、フラットタイプとオフセットタイプではカウンターシャフトのスプラインに加わる応力に大きな違いが生じるとか、耐久性や耐摩耗性などライフの問題、さらに取り付けの要領などは、すべて発案者であり発注者である我々が問題を解決しなくてはならない。
焼き入れ方法ひとつで変わってしまう金属の特性も、自分たちのマシンで実験して製造メーカーに伝える必要がある。
部品が壊れる要因には振動、摩擦、干渉、素材の疲労などさまざまなものがあり、すべてを高次元でまとめながら逃げ道も作っておかなくてはならない。駆動系パーツに関していえば、絶対に摩耗しない、絶対に壊れない部品はあり得ないのだから
「もし壊れるのならここから」
「ここで他へのダメージを吸収しよう」と、あえて弱い部分を作るわけだ。
そういう理由から、オートマジック製オフセットスプロケットのスプライン部は、カウンターシャフトより若干耐久性を弱くしながら2つに割れないような形状と強度を設定している。カウンターシャフトより強靱にすることも可能だが、消耗して交換する際の手間とコストを比べれ
ば、どちらを「あえて負けさせる」べきかは明白だ。完成品を見れば当たり前で当然と思えるようなディティールにも、試行錯誤した発案者の思想があることをぜひとも知って欲しいと思う。
人気絶版車用カウンターシャフトのスプライン形状に合わせて、複数の歯数と異なるオフセット量を用意して製品化したスプロケットは、空冷4気筒カスタムブームの中で足周りカスタム用の定番パーツとして大ブレイクし、オートマジックを代表する大ヒット商品となった。
【カスタムブームで登場したプライベートカスタムという存在】
話は替わるが、現在のカスタム環境は我々がカスタムバイク製作を始めた頃と比べて、とても寛容になっている。それは量販店でボルトオンカスタム用の素材が数多く販売されている現状を見ても明らかだ。プライベーターが比較的容易にカスタムできるようになったことで、個人の趣味として楽しむ層も増えている。
それ自体はとても良いことだと思うのだが、中には安全性をないがしろにした作業に「これはマズイだろう……」と言葉を失うこともある。
具体例をいくつか挙げれば、2枚重ねでオフセットしたキャリパパーサポートや強度不足のリアブレーキフローティングキット、振動が多いにもかかわらずラバーマウントなしで取り付けたオイルクーラーやメーターが代表例である。また補強になっていないサブフレーム、中にはフ
レーム補強にパテを使ったり溶接でつなぎ合わせたステムシャフトなど、付けば良いというより危険なものまである。
我々はそうした人々をヤッツケカスタマーと呼ぶが、そうした作業のツケはユーザー自身にのしかかっていることを忘れてはならない。自分一人で転倒して怪我するのも痛いが、他人を巻き込んでしまったらそれこそ取り返しがつかない。
プライベーターの中には我々が思いつかないような光る個性を発揮する人
もいるが、できることとできないことを見極めて、必要に応じてプロのカスタムショップに声を掛けてもらえれば幸いだ。
【コピーや模倣の横行が独創的な発想力を阻害する】
本題に戻ろう。
多機種に適合するフロントオフセットスプロケットを開発したことで、ショップやユーザーはより太いタイヤを車体中心にレイアウトできるようになり、我々にとっては目論見が功を奏してビジネスの弾みとなり、両者にとってハッピーな結末になるのだが、物事は思うようには進
まない。オフセットスプロケットを企画した当初は取り合ってもくれなかったメーカーや、その有用性に注目したカスタムショップがオフセットスプロケットをリリースしてきたのだ。
それは我々の着眼点が正しかった、そこにビジネスのタネがあったことの証明となるのだが、オートマジックが発案したアイデアを「儲かりそう」という魂胆でパクッていくのは許せなかった。商売にはすべからくそうした側面があるという、醒めた意見もあるだろうが、商品開発に反映した我々の労力をまったく無にするものだとは言えないだろうか。
これはバイクのカスタム業界だけに限らず、スマートフォンや家電品、高級ブランド品の世界でもあることだが、模倣品やコピー品、海賊版がはびこり、そんなレベルで商売が成立してしまうことを知れば、新しいものを生み出そうという意欲も低下してしまう。その結果、発案者はアイデアと価値を守るために知的財産権を取得するなどの防衛策を採らざ
るを得ず、そのコストは製品に反映されてユーザーの負担になってしまう。
手早く金儲けができればそれでいい、というのは短絡的で貧弱な発想である。我々ショップは、見る者の心を魅了するような、独創性の高い手法やスタイルのカスタムを発進し続けなくてはならない。そのために常に新しい何かを考え、生み出す力が求められる。そうしたフィールドで勝負してきた自負があるから、誰かの発想のコピー、どこかの製品のコピー
には本来の価値はないと考える。
そもそも他人と違ったものが欲しくて始めたはずのカスタムが、いつの間にか自分のセンスや信念ではなく、皆と同じが安心で無難なカスタムに落ち着いてしまう。それで満足できるのだろうか?
模倣やパクリモノで満足しているようでは、自分自身に合った本当の価値は見つからないと思う。その価値観が活性や進化に影響するのである。新たな発想でユーザーを魅了し続けないと、やがてブームも文化も衰退してしまうだろう。この業界の今後にとって、そのことをショップもユーザーもしっかり考えることが重要だと思うのだが、いかがだろうか。
追記:カスタムはお客さんの希望や夢を叶えるものだ
が、一方で他人が想像できない発想や手法でアッといわせて自らの
ペースに引き込むのも醍醐味である。その両方を追求してきたオート
マジック荒木氏は、自由なカスタムを楽しむ為に、型にはまらない思
考や創造性で新しい提案を模索し続けている。