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曇り空の窓辺で

午後3時、空はどんよりとした曇り空。風はそれほど強くないけれど、肌に触れると薄い膜のような冷たさを残していく。曇天の下では、街全体が少しぼんやりとして見える。コントラストのない景色はどこか眠たげで、静かに深呼吸するような空気が漂っている。

金木犀の香りはすでに遠く、代わりに風の中にほのかな枯葉の匂いが混ざっている。私はその匂いを胸いっぱいに吸い込む。

こんな日は、家に帰る道のりがほんの少し特別に感じられる。家に入った瞬間の、温かな空気がふわりと体を包み込む感じ。外の冷たい空気をほんのりまとった自分と、家の中のぬくもりが出会うこの瞬間が、好きだ。

コートを椅子にかけ、キッチンへ向かう。こんな日には、熱いコーヒーが無性に飲みたくなる。豆を挽くときの香りは、いつもよりも深く、部屋全体にしっとりと染み渡るようだ。湯気が立つポットをのぞき込みながら、お湯を少しずつ注ぐ。柔らかく、窓から入る薄暗い明かりが、コーヒーの黒と湯気の白を静かに際立たせる。

カップを手に窓辺に座ると、外の景色がふっと視界に広がる。灰色の空、無風で微かに揺れる木々。曇りの日特有の、静かで、どこか湿ったような静寂がそこにある。

コーヒーを一口。湯気越しに見える景色が、ぼんやりと曇ったレンズを通したように優しく滲む。その瞬間、外の寒さや雲の重さがすっと薄れていくのを感じる。コーヒーの香りが部屋を満たし、その中でひとり、秋の午後の曖昧な空気感に包まれる。

こんな午後のひとときが、この季節の曖昧な空気にぴたりと馴染んでいく。

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