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~涙が言葉になる前に~ 書く楽しさ再発見!あなただけの文章を紡ぐ スローライティング講座 テーマ「涙」 講師黒木里美
「スローライティング講座」では、文章を書くことに苦手意識を持つ方でも、ゆっくり自分のペースで書く楽しさを見つけられるようお手伝いしています。
講座の中では、受講生の皆さんが選んだテーマで自由に作文を書いていただきます。
そして、講師も同じテーマで一緒に文章を書きます!
もちろん理由は、書くことが好きだからです😊
今回は『涙』というテーマで講師が書いた作品をご紹介します。
言葉をじっくり紡ぐ時間の楽しさや、テーマから広がる世界観をぜひ感じてみてください。
涙が言葉になる前に
「懐かしのアニメ特集」という番組を覚えていますか。
私たちの親世代が子どもの頃に見ていたアニメを、ストーリーをダイジェストでまとめて、クライマックスとラストシーンまで見せてくれるという内容です。
親たちと一緒にその番組を見ながら、思い出話を聞いているうちに、実際には見たことのない作品なのに、なぜか自分も見たような気になり、すっかり物語を知った気分になっていました。
今振り返ると、なんとも不思議な体験です。
数々のアニメの中で、私が一番印象に残っているのは『フランダースの犬』でした。
少年ネロは、愛犬パトラッシュと吹雪の中、教会を訪れる。
宗教画を目にして感動し、そして眠りに落ちる――。
天使たちに導かれて旅立っていくラストシーン。
このシーンを見るたびに泣いていたのは、私ではなく、二つ下の弟でした。
弟は涙をボロボロこぼしながら、しゃくりあげて泣いていました。
それはもう、親たちが驚くほどでした。
「なんでそんなに泣いているの?」とたずねても、弟は怒ったように「わからない」としか言えずにいました。
一方、私はというと、そんな弟の様子にどう向き合えばいいのかわからず、ついおどけてからかうような態度を取ってしまっていました。
思い返せば、本当に愚かで、情けないことをしたと恥ずかしくなります。
理由なんてわからないのに、ただ涙が溢れてくる――。
感情のまま泣くことができるのは、なぜなのだろう。
なぜ、私は泣くことができなかったのだろう。
小さな弟の涙を思い出すたびに、私の胸には家族団らんの懐かしさと、羨ましさがよぎります。
あとがき
この文章を書きながら、改めて「涙」が言葉以上に豊かな感情を語る力を持っていることに気づきました。
弟の涙は、家族の中で小さな存在だった彼自身の純粋さそのものであり、私にとっても特別な記憶となっています。
それをからかってしまった自分の未熟さを思うと、少し心苦しい気持ちになりますが、あのときのことがこれほど鮮明に心に残っていることに、今では感謝しています。
私たちは大人になるにつれて、感情に理由を求めたり、言葉を添えたりするようになります。
でも、「涙」は理由や言葉を超えた形で、本人や周囲の心を豊かにしてくれるものだと気づかされました。
もしあなたの中にも、言葉にならない感情がうまれたら、どうか大切にしてください。
その想いが、いつか特別な記憶となり、あなた自身を深く支えてくれるはずです。
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1984年東京都文京区生まれ。2012年よりリテラ「考える」国語の教室の講師を務める。子どもたちへの文章技術や国語・作文の指導を通じ、ことばの学びは、困難にぶつかっても、しなやかに心を回復させ、自らの力で乗り越える自信を育ってることに感銘を受け、日々心理学的なアプローチを授業に取り入れられるようにと研究を続けている。2022年からオンライン講座を開始。初年度から300名以上の受講生と出会い、子どもから大人まで幅広い年代に言語技術を広める多様な講座を展開中。中学受験・高校受験では、受験生一人ひとりの個性や資質に合わせたオーダーメイドの指導と、受験メンタルトレーナーとして受験生本人と保護者・家族の心のケアにも努めている。
【資格】受験メンタルトレーナー チャイルドカウンセラー 発達障害コミュニケーション指導者初級 心理学検定1級 文章能力検定2級 中高社会科教員免許 國學院大學法学部卒業