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リンゴを罵倒し、カビを褒めるためにゆる学徒カフェのスタジオをレンタルした話
急な話で恐縮なのですが、10/20 14:00~、「ゆる科学部」の集まりにて、 リンゴを罵倒しなければならなくなりました。
これに伴い、リンゴ(入手性の問題で、他の果物になるかもしれません)へ かける罵倒の言葉と褒めの言葉を広く集めたいと考えています。
集めたいのは
・果物(リンゴ、みかん)に対する罵倒の言葉
・果物(リンゴ、みかん)への褒めの言葉
・カビ/腐敗菌に対する罵倒の言葉
・カビ/腐敗菌への褒めの言葉
のよっつです。
詳細は添付の画像を参照してください。
はじめに
本記事は、ゆる言語学ラジオ非公式Advent Calender 2024 の 13日目の記事です。昨日の記事はAchi Fujimuraさんの「ストリートビュー好きがGeoGuessrを始めた話(仮)」、明日の記事はよみさんの「キング・クリムゾンの能力考証」です。
1 緒言
「言葉には特別な力が宿っている」といった話を聞くことがあります。
曰く、「水に綺麗な言葉をかけると綺麗な結晶になる」「植物などにきれいな言葉と汚い言葉をかけ続けると、「言葉の波動」の効果により別の変化が見られる」、等々。「ばかやろう」と言い続けたリンゴが「ありがとう」と言われていたものより早く腐った といった報告もあります$${^{[1]}}$$。
また、このような効果を科学的に検証したとする研究$${^{[2]}}$$もあり、この研究においては、「 "言葉の力" は本当であった 」という結果が得られているようです。
1.1 先行研究の疑問点
しかし、上述した[2]の先行研究には、以下の疑問点があります。
「ありがとう」と声がけされる予定の試料が、別の試料が「ばかやろう」と言われているのを聞いて、自分が罵倒されたと勘違いしていないか?
一般的に罵倒するときの方が強く声を発するため、罵倒の時により多くの唾液が試料に付着していないか?
先行研究[2]実験②ではバレンシアオレンジが使用されているが、産地について言及がない。外国産のため日本語が通じなかった可能性はないか?
「腐敗」や「カビの発生」は、腐敗微生物やカビ菌による効果である。「ばかやろう」と言われたドMのバイ菌野郎が興奮して活発になった結果、より腐敗が進んだ可能性はないか?
我々「ゆる科学部」では、先行研究における上記の疑問点を解消した上で「言葉の力はどのように食物の状態に作用するのか?」を検証していきます。
2 実験計画
2.1 『罵倒のコンタミ』の解決
a バレンシアオレンジを3個用意する。→A・B・C
b Aには「ばかやろう」、Bには「ありがとう」と言
葉を1日15回かける。
Cには何も言葉をかけないでおく。
先行研究[2]によると、用意した実験試料に「ばかやろう」、「ありがとう」とそれぞれ声がけをしたことが書かれていますが、例えば、試料Aにばかやろう、と声がけしている間、試料B, Cにそれが聞こえないような対策を取っていたのかについては記載がありません。
もし対策がされていない場合、試料Aに向けられた罵倒を、試料B, Cが「ぼくのことかな?」と誤解して影響が生じる可能性があります。
罵倒のコンタミです。
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この問題を解決するため、声がけは防音室内で行います。対照実験に使用する他の試料を防音室の外に置いておくことで、罵倒のコンタミを防止できます。
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そこで、我々は今回、池袋にある「ゆる学徒カフェ」の防音ラジオスタジオをレンタルし、その中で実験を行うことで、この「罵倒のコンタミ」問題を解決することにしました。くだものを罵倒するためにゆる学徒カフェのスタジオをレンタルしたのは、たぶん、我々が初ではないかと思います。
なお、「ゆる学徒カフェ」のスタジオ内への飲食物の持ち込みは原則禁止であるため、店舗スタッフの方に事前に相談しご許可をいただきました。スタッフの方は大変怪訝そうな顔をされていました。
2.2 唾液の影響
強い言葉で相手を罵るときはいつもより大声になりがちですし、息を押し出す破裂音が増えることで、褒める場合よりも唾液の飛沫が多く飛びます。唾液の中には1gあたり10,000,000個の細菌がいるとも言います$${^{[3]}}$$し、より多くの飛沫が試料にかかることで、実験の結果に影響があるかもしれません。
このことを確認するため、実験試料を「声がけするときに容器の蓋を開けたもの」と、「声がけするときに容器の蓋を閉じたもの」の2つにわけることにします。
また、実験の際には水で色が変わる紙を容器の下に敷くことで、どの程度の唾液が飛んだかを確認できるようにします。
2.3 母語の影響
先行研究[2]実験②に使用している試料、バレンシアオレンジは、日本で流通しているほぼ全てが輸入品です(日本国内では和歌山県で若干生産されている$${^{[4]}}$$)。外国産の場合は日本語が通じず、言葉の力による影響を正しく測定できなかった可能性があります。そこで、今回の実験では試料として日本語の母語話者である、国産のリンゴを使用します。
また、2.4 項にて論じるとおり、食物に付着するカビ菌や腐敗微生物も、本実験における重要なファクターです。実験の前提として、実験環境中の腐敗微生物やカビ菌も日本語を理解している必要があります。幸いなことに、ゆる学徒カフェのスタジオに漂うカビ胞子はゆる言語学ラジオを散々聞いており、日本語への造詣が深いことが期待できます。
2.4 カビ菌の影響
カビ(黴)とは、菌類の一部の姿を指す言葉である。あるいはそれに似た様子に見える、肉眼的に観察される微生物の集落(コロニー)の俗称でもある。
食物の腐敗やカビは、食物自身によって生じるものではなく、腐敗微生物やカビ菌の活動の結果として生じる現象です。従って、罵倒や褒めにより、腐敗微生物やカビ菌の活動の度合いが変化する可能性も考慮する必要があります。
悪い言葉がリンゴに悪影響を及ぼしたのではなく、罵倒によってドMの菌奴隷の活動が活発になった可能性があるわけです。
しかし、先行研究[2]においては、そのような視点での対照実験は行われていませんでした。単に「ありがとう」「ばかやろう」とだけ言うのでは、食物とカビ菌のどちらに対して効果があったのかは判断できません。
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この問題を解決するため、リンゴとカビ菌、それぞれどちらに対して言っているのか明らかな言葉を使うことで、リンゴを褒める / リンゴを罵倒 / カビ菌を褒める / カビ菌を罵倒 という4つのグループに分け、これらの結果を比較することにします。
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3 実験
3.1 『罵倒』と『褒め』の準備
この実験を始めるにあたって最初に準備すべきものはリンゴではありません。『罵倒』と『褒め』の言葉です。前述のとおり、リンゴとカビ菌、どちらに対して言っているのかが明らかな『罵倒』と『褒め』の言葉を、それぞれ大量に準備しておく必要があります。
そこで、ゆる言語学ラジオサポーターコミュニティ内のDiscord(以下、"ゆサD"と略す)にてこれらの言葉の募集をかけることにしました。このときの案内文が、冒頭に引用した文章です。
ゆサDの皆様にはノリノリでご協力いただき、様々な『褒め』や『罵倒』の言葉が集まりました。
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若干罵倒の方が多く集まった気がしますが、決してゆサDがそういうコミュニティだからだとか、そう言うことではない筈です。
3.2 試料の準備
前出の通り、実験は以下の四つのグループに対して行います。
リンゴを罵倒する
リンゴを褒める
カビ菌を罵倒する
カビ菌を褒める
そして、唾液飛沫の影響を確認するために、上記の各グループ毎にそれぞれ以下の2種類の状態の試料を用意します。
容器を開け、唾液の飛沫がかかる状態にした試料
容器を閉め、唾液の飛沫がかからない状態にした試料
つまり、4×2=8つの試料を用意する必要があるため、日本生まれ日本育ちであることを確認して購入した日本語母語話者のリンゴを8等分にカットし、アルコール消毒済みのタッパー×8に、カットしたリンゴを1つずつ入れます。
3.3 実験の流れ
試料の入ったタッパー2個を、防音スタジオ内の机に置きます。
このとき、一方は蓋を開け、もう一方は蓋を閉じた状態で配置します。
そしてタッパーの下には水書き半紙を敷きます。
ここまでが「1グループ分の実験のセッティング」となります。
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この状態で、2分間の声がけを行います。
これを、リンゴを褒める / リンゴを罵倒 / カビ菌を褒める / カビ菌を罵倒 の4つのそれぞれで実施します。
3.4 実験の様子
準備ができたら、いよいよ実験を開始します。
いつも、ゆる言語学ラジオが収録されている机でリンゴを罵倒したりカビ菌を褒めたりしていきます。
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声がけは、ゆる科学部員および、そのときカフェに来ていたお客さんを巻き込んで行いました。
ゆさDでの募集で多くの褒め/罵倒の言葉が集まったとはいえ、1グループあたり2分の声がけはなかなか大変で、1分ほど経った時点で「やばい、もう罵倒のストックが無い」「カビへの誉め言葉なんてもう思いつかない」という状態に陥り、だんだんと参加者がみんな静かになっていきます。他の人がなんとか絞り出した罵倒や誉め言葉に対して「そうだー!」とか「そのとーり!」などと合わせるだけになっている人も現れました。
そんな状態の我々の様子がこちらです。
先行研究で「食物に"ありがとう"と声をかける」「食物に"ばかやろう"と声をかける」等の実験をしているものはありますが、実際に声がけしている状況を動画で公開しているものは見当たりませんので、なかなか貴重な資料ではないかと思います。
各グループの実験終了後、タッパーの下に敷いた水書き半紙の状態をに確認し、どれくらいの唾液の飛沫が飛んでいるかも確認しました。
各グループ実施後の写真が以下となります。
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カビ菌褒め、リンゴ褒めでは全く飛沫が飛んでいない一方で、カビ菌罵倒、リンゴ罵倒ではいくつかの黒い点があり、若干飛沫が飛んでいたことが確認できます。このことから、実験計画時の想定通り、罵倒のほうが唾液の飛沫が多く飛んでいることが観察できました。
4 実験後の試料の経過観察
実験後は試料を持ち帰り、試料の状態を毎日観察していきます。
以下のように試料を配置し、毎日写真を撮りました。
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上記は、以下のように配置されています。
↑上半分 (黒枠内の4つ) が カビ菌 に声掛けした試料、
↓下半分 (赤枠内の4つ) が リンゴ に声掛けした試料←左側半分は罵倒された試料、 右側半分→は褒められた試料
枠で囲ったタッパー2つで1セット。
枠内↑上側は実験時に閉めていた
枠内↓下側は実験時に開けていた
それでは経過写真をどうぞ。
4.1 経過観察
1日目(実験の翌日)
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1日たったくらいでは特に何も起きていませんでした。
2日目
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2日経っても特に何も起きてません。
3日目
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カビ菌を罵倒した試料(左上2つ)に黒い点が現れてきました!
4日目
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全体的に黒くなってきました!
それでもやはりカビ菌を罵倒した試料(左上2つ)が一番黒くなってる気がします。
5日目
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全体的に黒が広がり、灰色のカビも生えてきました!
6日目
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褒めた試料(右下2つ)も黒が大きくなってきました。
7日目
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昨日と傾向は変わらず。
8日目
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以降も同じ傾向が続きました。
4.2 経過観察のまとめ
リンゴを褒める / リンゴを罵倒 / カビ菌を褒める / カビ菌を罵倒
のうち、特にカビが大きく現れたのは以下の2つでした。
「カビ菌を罵倒した」試料(↖左上)
「リンゴを褒めた」試料(右下↘)
また、各実験グループ内で「タッパーの蓋を開けていた」「タッパーの蓋を閉じていた」の2つの試料を比べた時、以下の傾向がみられました。
リンゴを褒めた場合のみ、実験時にタッパーを開けていた方がより大きくカビが現れた
他の実験グループでは、実験時のタッパーの開け閉めでカビの現れ方に違いは見られなかった
5 考察
我々は本研究において、"言葉の力" がカビ菌に影響を及ぼすのではないかと考え、実験計画を立てました。この仮説の通り、カビ菌を罵倒したときに、リンゴに生えたカビが他の試料に比べてより繁殖しました。このことで、ゆる言語学ラジオが収録されている空間にいるカビ豚がドMであることが実験によって明らかになりました。
ゆる学徒カフェのスタジオを今後使用する人は、カビ菌がドMであることに気を付けた方が良いかもしれません。うっかりスタジオ内でカビ菌を罵倒するようなことを言ってしまうと、カビ菌の活動が活発になり、持ち込んだ飲食物が早く傷んでしまう可能性があります。スタジオへの飲食物持ち込みが不可であることには合理的な理由があったのです。
一方でリンゴについては逆に、褒めたときの方がカビがより大きく現れました。これはつまり、リンゴは罵倒された時よりも褒めた時の方が元気がなくなることを意味しており、リンゴは卑屈であることが分かります。ただし、容器を密閉した場合には他と様子に違いがなかったこと、褒めたときには唾液飛沫はほぼ試料にかかっていなかったことから、唾液飛沫とは無関係に、容器の蓋の開け閉めの状態が結果に影響していたと考えられます。ひょっとしたら、リンゴは恥ずかしがり屋さんなのかもしれません。
国産のリンゴを食べるときは、美味しいなど、リンゴを褒めるようなことを直接は言わない方がよいかもしれないですね。
6 結論
ゆる言語学ラジオが収録されている空間にいるカビ胞子はドMなので、スタジオには飲食物を持ち込まない方が良い。
国産のリンゴは卑屈な恥ずかしがり屋さん。食べる時には美味しいと言わないであげた方が良いし、どうしても美味しいと言ってあげたいなら、容器に移して封をした上で言ってあげてね。
余談
リンゴの経過写真を撮ったあと、真っ黒になりカビが生え切ったリンゴを捨てる作業をしました。
その作業を行っている間、とても甘く美味しそうなリンゴの素晴らしい香りがしたのです。
高級なリンゴジュースのようでした。
リンゴの見た目はとても食べられる状態ではなかったのですが、目をつぶって香りだけを感じるととても美味しそうで、
ちょっとかじってみようかな?
という考えが頭をよぎりました。
さすがにリスクが大きすぎると思い行動には移しませんでしたが、どのような味がしたのか今でも気になります。
リンゴが熟成、発酵したということなのでしょうかね。
おわりに
申し遅れました。我々「ゆる科学部」は、「ゆる言語学ラジオ」「ゆる民俗学ラジオ」等の有料サポーターが中心となって集まったサイエンス好きの集団です。「ゆるく楽しく科学を学んで遊ぶ」をモットーに活動をしており、
みたいな活動をしています。上記それぞれnoteの記事へのリンクになっていますので、よろしければそちらもご笑覧いただければと思います。また、我々の活動にご興味を持った方がいらっしゃいましたら、ゆる言語学ラジオサポーターコミュニティ内で「ゆる科学部部室」で検索いただけると、入会案内の投稿がございます。
参考文献
[1] ウィング. "信じられない!「言葉の力」でリンゴの腐るスピードが激変?驚きの実験結果". ワンルーム・Blog. 2017-10-13 . https://megalodon.jp/2018-0607-1506-44/https://oneroom-blog.com:443/power-of-words , (参照 2024-12-13).
[2] 大阪教育大学附属天王寺中学校 自由研究〈第41集 2016〉. "「言葉の力」は本当なのか?-古代日本で信仰されていた言霊を検証する-". 大阪教育大学附属天王寺中学校 自由研究DB(データベース) . 2016 . https://f.osaka-kyoiku.ac.jp/tennoji-j/wp-content/uploads/sites/4/2020/09/41-04.pdf , (参照 2024-12-13).
[3] 大西歯科・口腔外科. "お口の中の細菌(微生物)は体の中で最も高密度です". 大西歯科・口腔外科. 2021. https://ohnishi-dc.com/お口の中の細菌(微生物)は体の中で最も高密度 , (参照 2024-12-13).
[4] Kudamononavi.com. "ホーム > 食べ頃カレンダー > 旬の果物 > バレンシアオレンジ". 果物情報サイト 果物ナビ. 2024. https://www.kudamononavi.com/calendar/kudaindivi/cal=107#google_vignette , (参照 2024-12-13).