ウンコ漏らした

電車の中はいつもと変わらない混雑ぶり。乗り込んですぐ、急にお腹がぐるりと動いたが、気にせずつり革に掴まった。ささやかな腹の違和感はよくあることだし、駅に着けば解消するだろうと高を括っていた。だが、やがて不意に小さな屁が出てしまい、少し驚きつつも気を取り直し、何気ない顔を装っていた。


それから数分、また同じような感覚が襲ってきて、ついには二度目、三度目と小さく屁が出てしまう。その都度、周りに気づかれないように顔を俯かせ、汗がにじむのを感じていたが、次第にお腹の痛みは増していき、冷や汗が頬を伝うようになった。さすがに不安になってきたが、あと少しで自分の降りる駅だと自分に言い聞かせる。


しかし、時間が経つごとに腹の痛みがひどくなり、やがて立っているのも辛くなるほどに。周りの乗客たちの視線を気にしつつも、眉をひそめて耐えたが、波のように押し寄せる痛みは限界を超えてしまい、ついに恐れていた事態が起こる。――我慢しきれず、ほんの少し漏れてしまったのだ。


自分でも信じられない状況に震えが止まらない。周囲に異変を悟られないようにと必死に顔を作り直し、何事もなかったように装ったが、悪臭が漂い始め、近くの人たちが微妙な表情を浮かべているのが見て取れた。その視線を受けて羞恥心が一気に込み上げ、どうしようもない絶望感に打ちひしがれてしまう。


「大丈夫ですか?」不意に柔らかい声が耳に入った。顔を上げると、自分の隣に立っていた女性がこちらを見ている。優しいまなざしに一瞬戸惑ったが、すぐに彼女はその手で自分の肩を軽く支え、少し笑顔を浮かべて言った。「ここでは辛いでしょう。次の駅で一緒に降りましょう」


信じられないほど親切な対応に胸が締め付けられ、申し訳なさと安堵の入り混じった感情が込み上げてきた。次の駅で降りると、彼女は迷惑そうな周囲の視線から守るように体を少し前に出し、駅のベンチまで連れて行ってくれた。座ると、無意識に涙がこぼれ始めた。ここまで恥ずかしくて、惨めな思いをしたのは生まれて初めてだったからだ。


彼女はハンカチをそっと差し出し、涙を拭き取るよう促してくれた。そして、しばらく無言のまま隣に座って、何も聞かずに寄り添ってくれた。その沈黙が、どれほど救いとなったか分からない。やがて彼女は、小さな声で「こういうときってありますよね」と微笑んだ。その一言に、心が少し軽くなった。


結局、彼女は駅員に助けを求め、事情を説明してくれて、自分が動けるようになるまでそばにいてくれた。その親切に救われ、恥ずかしい出来事も、どこか温かな思い出に変わり始めているのを感じた。

いいなと思ったら応援しよう!