新しい家族のかたち

「結婚するって決めたの、私たち。」

リビングのソファに座って、あやかが唐突に言った。私は一瞬、何を言われたのか理解できず、目をぱちくりと瞬かせる。

「誰と?」と、つい口にしてしまう。けれど、あやかの表情を見ると、そんな質問が失礼だとすぐに気づいた。彼女の隣に座る沙織が、ほんの少し苦笑いを浮かべているのが見えた。

「もちろん、沙織とだよ」と、あやかが答える。まるで当たり前のことを話しているような口調だったが、私の中ではすぐに理解が追いつかなかった。

「でも、同性婚はまだ…」

「わかってる。でも、私たちが一緒に生きることを選んだってこと、それは変わらない。法律がどうとか、姓がどうとか、そんなことは問題じゃないって思ってる。大事なのは、私たちが家族だってこと。」あやかは、沙織の手をそっと握った。二人の目が合い、言葉のない信頼がそこにあった。

私は、彼女たちが選んだ道の重さをようやく理解し始めていた。結婚という言葉にとらわれない新しい形を、二人は作ろうとしているのだ。選択的夫婦別姓の議論が社会で盛んになりつつある中で、彼女たちのように「自分たちの家族」を定義し直す人たちが増えているのかもしれない。伝統的な家族の枠組みは、今、大きく揺れ動いている。

「それに、選択的夫婦別姓が認められるかもしれないって話もあるし、そうなったら、私たちみたいな関係ももっと認められるかもって思ってる。」沙織が微笑みながら言った。

「だから、まずは一緒に暮らすことにしたの。法律が変わるのを待つんじゃなくて、私たちが自分たちの家族を先に作る。それが私たちの選択。」あやかの声には、揺るぎない決意が感じられた。

私は、彼女たちの選択が美しいと思った。人が人を愛し、共に生きること。それは、性別や法律に縛られるべきではない。だが、その一方で、今の社会がその自由を許していないこともまた事実だ。

「応援するよ。」それしか言えなかった。だが、それが彼女たちにとってどれだけの意味を持つか、少しだけわかる気がした。

「ありがとう、菜月。あんたならそう言ってくれるって思ってたよ。」あやかが笑顔を浮かべ、沙織と再び目を合わせた。

その瞬間、私ははっきりと感じた。これが、これからの「家族」の形なのかもしれないと。選択や自由、そして愛が紡ぐ、新しい時代の家族の形が。

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