脳髄に響く残響

部屋の中にはゲームのコントローラーが無造作に転がっている。モニターの光は彼の顔を青白く照らし出し、瞳の奥で絶え間なく流れるデジタルの世界が、まるで現実のすべてを飲み込んでいくように錯覚させる。もう何時間、いや何日、彼はこのゲームの前に座り続けているのだろうか。頭の中には重く鈍い痛みがあり、それが前頭葉に特に集中しているのが感じられた。


「疲れた……」


声に出した言葉は、まるで他人のもののように空虚だった。しかし、コントローラーを手放すことはできない。ゲームの中での勝利、敵を倒し、経験値を稼ぎ、より高いランクに上り詰めるという達成感が、今や彼の唯一の生きがいだった。現実の世界では、彼はただの一人の凡人に過ぎなかった。けれども、ゲームの中では彼は英雄であり、トッププレイヤーとしての栄光を一時的に享受することができるのだ。


画面に映し出される敵を次々に倒していく。しかし、その興奮や喜びは、かつてのように鮮烈には感じられなかった。確かに、ゲームの世界は彼を歓喜に包んできたはずだった。だが今、その世界に浸り続けることが彼の前頭葉に無数の針を刺すような苦痛をもたらしていた。


画面の中でキャラクターが動くたびに、自分の意識が強制的に引き込まれ、そして引き裂かれる。彼の視界は狭まり、何かが彼の脳をきしませているかのようだった。前頭葉が、もう限界だと言っている。休ませてくれ、と叫んでいるような気がした。しかし、その叫びを無視して彼はボタンを押し続ける。指先は痛みを通り越して痺れに近い感覚に麻痺していた。彼にとって、今この瞬間に手を止めることは、自分の存在そのものを否定するように思えた。


「あと少し……あと、もう一勝……」


彼は自分にそう言い聞かせる。現実の中で達成できないことを、この仮想の戦場で成し遂げる。それが、彼の生きている証のようなものだった。だが、ゲーム内のアバターがジャンプを繰り返すたびに、彼の前頭葉はさらに疲弊し、痛みは次第に鋭さを増していった。


突然、彼の目の前で画面がフリーズした。手元のコントローラーが反応しなくなる。瞬間、脳が現実に引き戻された。心臓が跳ねる。どうしてだ? なぜ動かない? 脳内に一気に広がる焦燥感。だが、すぐに画面にはシステムエラーの文字が表示され、彼は固まった。


「……終わった……」


虚空に向かって呟く。ゲームが終わり、彼はようやく現実に引き戻された。だが、その現実は、かつて彼が逃避しようとしたものだった。彼の視線は部屋の中をさまよい、散乱した缶や空っぽのカップ麺の容器が目に入る。埃っぽい空気が鼻を刺し、彼は無意識に額を押さえた。頭が重い。前頭葉が疲れきっている。その疲れが、彼のすべてを押しつぶそうとしている。


頭を振るが、もはや痛みは消えることなく、彼の思考を鈍らせる。数分間、彼はただ呆然とモニターの前に座り込む。手に持ったままのコントローラーは、いつもとは違い、ひどく冷たく、異質な存在に感じられた。彼の中で何かが変わり始めている。ゲームをし続けることへの執着と、その代償としての疲弊。前頭葉が訴えかける痛みは、彼に問いかけているのかもしれない。


「これでいいのか?」


だが、彼はその問いに答えることができなかった。


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