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「夜明けのすべて」

「いったい、私は周りからどう思われたいのだろうか。
明朗快活というのも違う、優しくて気がきくのはいいけどそれだけだと思われたもんなら堪らない。」
美沙。巷にいう大企業から従業員6名の粟田金属で働くようになって三年が経つ。

冒頭から怒涛のような「気遣い」を脳内で繰り広げる彼女は、重度のPMS(生理前症候群)で前の職場に戻れなくなったきっかけも、まさにこのことが理由だ。
爆発するまで収まりきらない、突発的で攻撃的な『怒り』の感情が、生理前の彼女を襲う。苛立ちの芽がぽっと顔を出すとまもなく、体を駆け回る不快な気分、気づいた時には自我を失い怒りを四方にぶちまける自分の姿を、意識の遠いところでぼーっと俯瞰し体に反して頭は冷え切っている。

入社して間もない新人、山添は自らが立てる「炭酸を開ける音」が彼女の苛立ちの芽にあたってしまい突然降りかかるような怒りに見舞われた、が、いつものように波がさるかのように静かにやり過ごした。

山添。いつも顔色が悪く生気がない。飲み物は決まって炭酸、昼はオフィスに一番近いセブンでカップ麺を買う。迷う必要はない、と言えば聞こえはいいけれど。
「昔の俺は今とは全然違っていて、明るくて仕事もできて、積極的で行動力もあって、週末は、、」

彼をそっくり変えてしまったのは、あまりにも突然で、今もなお鮮明なある普通の日のこと
いつものように彼女のちひろと行きつけのラーメン店に行き麺を啜っていると、突然胃の底を突き上げるような気持ちの悪い不快感に襲われ、救急搬送された。
いっときの体調不良に見えたそれは、パニック障害の始まりだった。
覚えていたくもないのに、体に癖がついたように繰り返す突発的な吐き気、吹き出す汗、回る視界
大好きだった職場を去り、よくつるんだ友人とも縁が途切れ、彼女とも別れた。

誰にもパニック障害の病名を明かさぬまま、終わりのない病気と歩む未来に到底顔をあげられず、這って生きている。

壊れた体を両手で抱き抱え、外界から潜むように生きてきた二人が、心因性の病気で処方される「知っている薬」をきっかけに関わり始める。

明日も生きるため、頑張りすぎないで生きる同志のような存在だった二人は
再び「他人と関わること」を通じて、踏み込みすぎたり、犯されすぎたりしながら
本来の姿を取り戻していく

実感のある私にとって、読み出しからきつい内容だった。
読んで入るが、深煎りしてしまってはこちらまで発作が起きそうなほど、心の壊れた人間をありのままに描写している

この痛みをわかって欲しいんじゃない、簡単に共感できるような重みの苦しみではないという矛盾への叫び
無条件に暖かく力強い腕で抱きしめてくれる何かを縋るように祈って眠る夜
発作という世界に引き込まれていく私と、それを遠くで見つめるある意識

「生きづらい」なんて形容させない、一人一人の叫びが聞こえてくる
明日が辛くて堪らない人へ、傷に塩を塗るようではあるが、どうか最後まで読んでほしい。祈っています。


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