あしのうらがつながる
子どもの頃の母の思い出。
歌っている。歌いながら料理をしている。パッチワークをしている。本を読んでいる。そう、彼女は色々なことが好きだったが、中でも本が好きだった。ジャンルは問わずの乱読だったが、いわゆる児童書も「面白い」と楽しそうに読んでいた。私は、私の好きな本を母が子供扱いせず一緒に面白がってくれるのが嬉しかった。
私が子育てをするようになると、母は絵本を時折送ってくれるようになった。それも、私や兄が子どもの頃に読んでいた絵本である。約半世紀前に出版されたそれらの絵本は、古びてはいるものの十分に読めるからありがたい。
谷川俊太郎さんの遊び歌と長新太さんの絵が楽しい「めのまどあけろ」(福音館書店 1981年)。私の子供達はこの本が大好きだ。長女は早口言葉のようにして遊び歌を覚えてしまった。お風呂から上がった後、みんなで「一番ぼたん とおりゃんせ」と歌いながらパジャマのボタンをはめている。
ながさわまさこさんの「とりをみた」(福音館書店 1983年)を読んでから長女が双眼鏡と鳥に興味を持つようになった。それから家族で双眼鏡を持って森や湖にバードウォッチングに行った。コノハズクが来て子育てをする季節になると、「ホウ ホウ」という鳴き声を聞きたくて夜の公園に自転車を走らせたこともある。今でも長女は「あ、ハシブトガラスや」「あ、アオサギや。あっちはムクドリ。」と公園や川で鳥に会うといちいち確認し、「ママ、フクロウは何て鳴くと思う?ゴロスケ ホウやで」と得意気に教えてくれる。
「あしのうらのはなし」(やぎゅうげんいちろう作、福音館書店 1982年)。
この本には、
きみの「あしのうら」をかいてみよう
というページがあり、当時4歳の兄と、1歳の私の「足の裏」を鉛筆でなぞった足形が残されている(母の字で日付と名前、そして足形が書いてある)。
その足形に今、私の子どもたちが足を合わせ、「ママとおんなじくらい!」とはしゃいでいる。
最後のページには
きみの つちふまずは どれぐらい できているかな? ちょっと しらべてみよう きみの 足のうらに 絵の具を ペタペタぬって、ぺたんと おせばいい
と書いてあるが、ここは長らく空白になっていた。
ある日の昼食後、長女がおもむろに絵の具を持ち出してきた。彼女はお風呂場で自分と妹の足の裏に茶色の絵の具を塗り、ぺたんと最後のページにおした。
「あしのうら ぺたんをしたひ 2024年5月6日」と私は日付と名前を書いた。
私の子どもは子どもを育てるのかな・・・。
どちらでもいいけど、もし育てるならその時まで、この本をとっておきたいものだ。