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長谷川賢治(76)/貝塚線物語
長谷川賢治(76)
彼は電設工事の作業員として47年間働いた。
毎朝自転車に乗って神社へ行き、境内の掃き掃除をしている。
家に帰るとお弁当を自分で作り、
新聞を読みながらお茶を飲み、
時間になったら電車に乗って
町でいちばん大きい整形外科の駐車場整備係の仕事をしに行く。
毎朝の弁当には必ず卵焼きを入れる。
オール電化にリフォームしてIHヒーターで作るのだが
毎朝同じものができないところに面白さを感じている。
油の量、卵を流し込む温度、かき混ぜ方、巻き方
2個の卵を使うわけだが、その世界は深い。
味も色々と試している。
朝準備した弁当を食べるのが1日のいちばんの楽しみと言っていい。
賢治には実は目指したい理想の卵焼きがある
定年の1年前、脳卒中で倒れ、6年の介護の末亡くなった妻仁美の卵焼きだ。
結婚して40年ずっと弁当に入っていた卵焼き。
どうして、同じクオリティで作り続けることができていたのか
今日も、自分で作ったものを口に運んで、彼女の腕に感心しながら
首を3回横に振って
微笑みながら
自分の卵焼きに点数をつけた。