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シャルル 第1話【創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品】

【あらすじ】   
日本最高の殺し屋、玲奈れいなには困った悩みがあった。それは高校の親友、愛菜あいなが幻覚となって現れることだ。
愛菜は決まって玲奈に警告を出す。
それは、玲奈に命の危機が迫っている時で…。
 

第1話 「玲奈。また危機が迫っているわ」


 夢が嫌いだ。
 
 こう言うと時々誤解される。「目標を持って日々精進することはいいことだ。たとえそれが叶わぬ夢であっても」とか、「私も〜。いい歳して現実みれてないやつは痛いよね〜」なんて的外れな説教や共感をされることがある。
 
 だが、私が言っているのは寝てる時に見る、あの訳の分からない世界の方だ。
 
 勿論私だって、全ての夢を嫌悪しているわけではない。たまに見る文字通り夢のような体験ができるハッピーな夢なら大歓迎だ。
 
 イケメンに囲まれてハーレム気分を味わったり、美味しいものを腹いっぱいに食べたり。
 
 そんな夢ばかりなら私は大歓迎だ。寧ろ起きている時も見たい。
 
 そうではなくて、私が嫌いなのは悪夢だ。
 
 と、言っても別に怪物に襲われたり、仕事でミスをしてしまって命を落とす夢じゃない。
 
 私の悪夢は高校の時の親友、愛菜が出てくる夢だ。

 
 夢の中で愛菜はいつも学校の制服を着て登場する。それもそのはずだ、私は愛菜の私服姿を見た事がない。
 
 もう10年以上前の事にも関わらず、愛菜は当時の私の印象そのままに現れる。
 
 夢の内容は大体が愛菜と会話することだ。当時も私と愛菜はずっとたわいもない話しをしていた。
 
 夢の中では私の近況について会話する。特に仕事の話しが多い。
 
 この前やった殺しのこと。今度行う殺しのこと。
 
 愛菜は高校の時の姿なのに、私は現在の姿で、リアルタイムで抱えている問題や悩みを話す。
 
 愛菜が夢に現れる時には共通点があった。難しい案件やリスクの高い案件を抱えている時、もしくは計画が甘くて私が危険に陥っている時。
 
 だから高校時代の親友に出会うこの夢が私は大嫌いだ。現れると碌な目に合わないし、そもそも深層意識で強い不安を感じているからこんな夢を見てしまうのだとしたら、私の弱さを見せつけられているに他ならない。
 
 こんな夢を見るなんて、世界で2番目に最悪だ。最悪という言葉的に2番目なんて矛盾しているかもしれないが。
 
 じゃあ1番最悪なのはなんなのかと言うと。
 
「おはよう。玲奈」笑顔で愛菜が微笑みかけてくる。
 
 悪夢が現実まで進行してきて、幻覚の愛菜が現れることだ。


 
 
 
 とりあえずは幻覚の愛菜を無視してベランダに出る。
 
 タバコに火をつける。
 
「ダメじゃない、玲奈。そんな格好で外に出るなんて。はしたないわ」愛菜が言う。私の格好は上がタンクトップで下が下着だ。
 
 ふー、と煙を吐く。
 
「たばこもいい加減やめなさい。肺ガンになるリスクがあるのよ?」愛菜はおせっかいにもそんなことを言う。13年前の愛菜そのまんまだ。
 
 私は愛菜の幻覚を見るようになった時を思い出す。
 
 5年ほど前だ。当時、私はとある男の殺しの案件を行っていた。聞いたことがない大学で聞いたことがない学部の助教を務めている男だった。今となってはそいつの名前は思い出せないし、記憶の中の顔もぼやけてしまっている。
 
 だが、強く印象に残っていることが二つあった。
 
 一つはキスが上手だったこと。
 
 もう一つは幻覚や幻聴と言った。認知の専門家だったこと。
 
 殺しにも色んな種類がある。通り魔のように殺す仕事や、スパイの様にターゲットに近づき、情報等を引き出した後殺す仕事。
 
 その案件は後者だった。会社にとある情報を引き出した後殺す用に命令された。やり方は自由だったが、依頼人の欲しがる情報を引き出すことと、その男の研究にまつわるあらゆるデータを破棄することが条件だった。
 
 私はそいつに気があるふりをして近づいた。真面目で研究一筋。浮ついた経験もせずに大学の助教に進んだ独身の男。簡単に恋人になることができた。
 
 そして、その過程で幻覚についての話を聞いた。
 
 勉強は苦手だったが、とても分かりやすかった。今思えばいい教授になれたんじゃないかと思う。私に物を教えるのは至難の業だ。そいつは教えるのが好きだったのか、もしくは自分の専門分野が好きで、誰でもいいから伝えたかったのかもしれない。
 
 とにかく私はそこで幻覚の知識を得た。
 
 そして、私は情報を手にいれると、そいつを殺害して家を放火した。殺害の痕跡を消せるし、依頼人がこの世から消したかったデータは家に保管されていたから、それも灰にすることもできた。一石二鳥だ。
 
 依頼人がどこの誰なのか。どうして一大学の助教を殺したかったのか。そこまでして消したかった研究はなんだったのか。何も分からなかったが、詮索しないのが業界のルールだ。
 
 私は依頼人の要求を完璧にこなした。
 
 その夜、私は愛菜の夢を見た。後にも先にもその時だけだったが、愛菜だけでなく、殺した男も夢に出てきた。
 
 夢の中で私と愛菜とその男で何かの議論をした。何の話しか覚えてないが、私自身についての話しだ。
 
 翌朝目を覚ますと、愛菜が幻覚になって現れた。

 
 
 
 殺しを後悔したのはそれが初めてだった。その男が生きていれば幻覚が現れたことに対して、専門家として何か意見を聞けたかもしれない。あるいは私が灰にした膨大な研究の中に幻覚を消す手段が載っていたかもしれない。
 
 だが、残念ながら全て失われてしまっていた。私自身が慎重に確かめて念入りに全て消したから明らかだった。
 
 以来、時々私は愛菜の幻覚に苛まれるようになった。 
 
 
 
 
 愛菜が出てくるのはちょっとしたルールがある。言ってしまえば夢に出てくるのは警告レベル1。そしてその延長線上にあるのが幻覚として出てくる警戒レベル2だ。
 
 つまり私の深層意識は何かとんでもないことが起こるとアラートを出している。
 
 もう一本タバコを取り出して口に咥える。愛菜の幻覚がまた口うるさく言っているが無視する。
 
 最後に愛菜が現れたのは半年前、現職の市議会議員を事故に見せかけて殺害する案件を受けていた時だ。
 
 あれは骨が折れた。依頼主は絶対に殺人であったことが露見しない様に望んだ。約5日間、下調べからプランニングまで、愛菜はベッタリ私からは離れなかった。
 
 その時に比較すると、今日の案件は簡単だと言える。
 
 今日は二件の本番殺害を控えている。一件目は総合病院の御曹司の殺害。もう一件は行政から指示を受けているにも関わらず、中々立ち退かないホームレスの殺害。
 
 どちらも徹底して完璧な計画を立てている。それに楽な仕事だ。なんと言っても護衛・・がいない。
 
 夢に愛菜が出てくるのレベル1の警告すら驚くような、容易い案件だ。

 それなのに幻覚が出た。
 
 ふー、とタバコの煙を吐く。
 
 悩んでいてもしょうがない。
 
 タバコの火を消し、私は身支度を整える。
 
 とにかく出社してから考えることにした。
 
「こら。玲奈。ちゃんと朝ごはん食べなさい。そんなんじゃ、元気でないでしょ」水だけ飲んで家を出ようとする私に愛菜が言った。
「うるせぇな」そこに来て初めて私は愛菜に言った。
 
 愛菜は肩を竦めると言った。
「女の子がそんな言葉遣いしてはいけません」
 
「うるせぇな」私はもう一度言ってから家を出た。
 
 
 
 第2話に続く




第2話

第3話

第4話

第5話

第6話


エピローグ




こちらの作品は、「イラストストーリー部門の応募」の応募作品です。
下記よりイラストをご確認いただくことで、より作品を楽しんでいただると思います。


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