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雪が降っても 1
駅前に10軒ほど連なる屋根付き商店街の歩道に寝泊まりしている人が居る。いわゆる路上生活者。昼間は公園のベンチに、夜はシャッターが降りると商店街の定位置にマットを敷いて横になっている。小柄でニット帽を被り、よく日焼けした顔で何ごとかを誰かに向かっていつも喋ってる。駅前に居着いてから、かれこれ半年以上経つので、役所や警察が気づいていないはずがない。季節はすでに春から冬になっている。
今日は大雪警報が出た。どうしのぐのかが心配になったが、今朝も定位置にいた。毛布にくるまっていたので、顔は見えなかったが、大丈夫なのだろうと思うほかない。
ホームレスの人には自立支援を促すサービスや緊急的な一時宿泊もあるので、きっと声はかかってるのだろうが、本人が同意しないのだろう、と推察している。とは言え、冷え込んだ屋外にある寝床を見るのも忍びない。意思決定はそのひと個人にあると言っても、独り言を繰り返しているさまを見れば判断能力の低下もあるに違いない。繰り返しの声かけがあれば、この大雪が宿泊所に行く気持ちに変わる良い機会になるかも知れないとの期待もある。
一度だけ、他人に話しかけているのを聞いたことがある。同じ商店街の飲み屋にふらっと入ってきた時のことだ。飲みたかったのだろうか、ちょっと懇願するような表情だった。店主が苦い顔で対応し、すぐに両手でばってんをつくりながら外に追い出していた。戻ってきた店主に「すいませんね、困っちゃいますよ」と独り言ちていた。
これまで声をかけようか、どうしようか迷うことがあったが、目が合わず話したことがない。
役割の人がいるはずだからその人たちに任せようという意識が働いて余計な手だしは無用、という結論に至っている。勝手な推察は、自分への良い言い訳になっている。いまや、役所も人手不足。もしかしたら、手の届いていない一人かも知れない。
職場でこの話をしたら、間髪入れずに若者二人から「連絡した方が良いんじゃないの」と返ってきた。
高齢者なので、担当エリアの地域包括支援センターを調べて電話した。丁寧に聞いてはくれたが「所内で共有します」との返事だった。冒頭に「それは市役所が担当なので」という話があったのだが、連絡してくれるかどうかは心もとない感じを受けた。
直接、市役所にかけてみた。地域包括支援センターにも電話をしたので、二重の連絡になるかも知れない、という断りを入れた上で、連絡した旨を伝えた。
電話の応対からすると、誰のことかはピンと来なかったようだが、すぐに担当課につなぐことを約束してくれた。
「本人の同意がないと緊急一時保護施設をご案内することはできませんからね」と伝えると、電話のむこうで安心したように「おっしゃるとおりです。担当課にはすぐに連絡します」と意を組んでくれた答えが返ってきた。
本人にとって良かったのかどうかはわからないが、悩んだ末に行動を起こしてみた。
彼女の命が守られること、その上で相談を受けて対応してくれる人ができる状況をに祈るしかない。