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秘密のカヲきゅん11

ゆかり子の定期健診後、カヲルはショッピングモールのレストランへ向かった。今日はお店の冬のフェアが始まる初日で、店頭に立ってみないかというお誘いがあったのだ。カヲルはその話にたいへん興味が湧いて、参加することにしたのだ。
ショッピングモールの会議室に行くとマネージャーと知らない女の子がいた。
「カヲルちゃん、久しぶり!」
「はじめまして!」
ふたりともすでにテンションが高くてカヲルは固まりかけた。
「こ…こんにちわ…はじめまして…」
「ささ入って入って」
よくわからないまま着席すると、マネージャーがパソコンの画面を指さした。
「じゃ説明するね」
話によれば、店の前で声掛けやチラシ配布などの宣伝をするのだという。パソコンで稼働範囲やフェアの内容、お店の様子のライブ配信などの説明を受けて
「はい。制服に着替えてね」
社員と同じ服を渡された。
「ふたりともツインテールでお願いね」
ポンポンのついたヘアゴムをテーブルに置くと、マネージャーは退室した。
「私、長尾っていうの。長尾ちゃんて呼んでね」
長尾はにっこりした。白い肌に切れ長の瞳が日本人形を思わせる。
「私は中屋敷カヲルです。カヲルでいいよ。よろしくね」
長尾ちゃんは普段はホールで働いているという。カヲルのことはすでに知っていた。
「カヲルは高校生?」
「ううん、家事手伝いしてる。長尾ちゃんは?」
「あたし主婦!」
長尾ちゃんはまだ二十代前半だったが結婚していた。

ふたりは更衣室で急いで着替えると鏡の前で、互いの髪を結った。
「メイクもかわいくしよう!」
「あたしさ、メイクわかんないから…教えてほしい」
「そーなの?学校行くときとかしなかったの?」
「うん…」
カヲルはメイクも昭和のスタイルしかわからない。深紅の口紅をべったり塗って、水色のアイシャドウを色濃く塗る感じだ。さすがにそれは今どきとは違うとわかる。
「いいよ。教えたげる!」
長尾ちゃんは、ぱぱぱっとポーチからコスメを取り出した。

二十分後、ふたりは店の前にやって来た。マネージャーがすでにチラシ配布をしていた。
「これ配布物。じゃあ、始めるよ」
チラシを渡されて二人は声掛けを始めた。
「冬のフェアはじまりましたー」
「ぜひお立ち寄りくださーい」
お店の前に女の子がふたり立つだけで急に華やかな雰囲気になった。道行く人たちがちらちらとレストランやカヲルたちを気にするようになった。
しばらくすると子供が話しかけてきた。
「おねーちゃんホームページに出てくる人?」
カヲルはしゃがんだ。
「そうだよ。見てくれてありがとー」
「わーい。おねーちゃんあくしゅして」
「いいよ」
すると子供は
「ありがとーばいばーい」
と言ってどこかへ走って行った。
長尾ちゃんのところにも
「こんにちわ!」
と声をかけてゆく人がいた。
「知ってる人なの?」
カヲルが聞くと
「常連さんだね。けっこうこの店は常連さんが多いんだ」
と、にこにこして教えてくれた。
「今日は…お客さんたくさん入るかもね…」
長尾ちゃんは笑っていた。




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