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樹堂骨董店へようこそ⑭

1622文字あります


「え…まさか…」
「ご神体を呼ぶってこと?!」
「それこそ力技じゃないか…」

「ねえさーん、この子の真っ黒いのキレイにしてあげてよー!」
那胡は祈るわけでも呪文を唱えるわけでもなく、目を閉じて普通に声をあげた。
急に中庭を望む窓ガラスがガタガタと震えだした。そして勝手にバーンと開いてしまった。
「うわぁ!」
「きゃああ」
カーテンを割って強い風が吹き込んでくる。外は寒いはずなのに生温かい風だった。薄い紅色の何かが舞っている。
風はリリアを包んだ。リリアの髪や服がふわふわと広がった。顔にまかれた包帯と白いワンピースに付着としていた血液の痕が一瞬で消えた。

背後の真っ黒い煙に少しずつ光が混じり始めた。次第に黒い色の煙は一粒ずつ見える粒子となってゆく。粒子は次第に大きくなりながら黒色からグレーにグレーから白色へと変化していく。
生温かい風はリリアの周りぐるぐると回転しながら、光の粒をどんどん大きくさせていった。そして、大きくなった光の粒が一粒ずつ弾け出した。弾けた光の大きな粒は上昇しながら消えてゆく。キラキラ光っている。
「きれいだねぇ」
那胡はポップコーンのように弾けてゆく光の粒を見上げた。すべての光の粒が消えてなくなると風はぴたりと止まった。

窓から冷たい外の風が吹き込んできた。那胡は窓を閉めに行った。
「ねえさん、ありがとおー」
リリアの近くに落ちている薄いピンク色の何かを七緒は床からゆびでつまんでとってみた。
「桜の花びらだ」
もうすぐクリスマス。桜なんてどこにも咲いているはずはなかった。
イツキはそんな三人を腕を組んで黙って見つめていた。少しだけ哀し気な顔に見えた。

「那胡、ご神体呼んだの?」
七緒は聞いた。七緒は人間に関するものはよく見えたが、自然なものなどはあまりよく見えないのだ。
「ご神体?…ねえさんてご神体なの?神社の?」
那胡はそういった知識はあまりないのでよくわかっていない。
「ねぇさんはね、私が小さい時から遊んでくれたりしてるよ。すごく優しいの。人間じゃないけどね」
その言葉にイツキは哀しそうだ。
「パパにも教えて欲しかったよ…那胡が桜杜と知り合いだって。今此処に来ていたものは桜杜の一部だよ。ご神体の一部だ。内緒で桜杜に遊びに行ってたんだな」
「だってさ、居心地がいいから…いや、そうじゃなくて今は!リリアのことが先だよ」
那胡はリリアの前に立つ。
「ね、体が軽くなったでしょ?」
リリアは那胡の手を両手で握った。
「ありがとう。すごくラクになったわ。何をしたの?」
「あれはね、桜杜のねえさんがすごく純粋できれいな力で洗ってくれたの。汚れていない澄んだエネルギーを注ぐと、たいていのモノはきれいになって、きれいになると今度はエネルギーをパンパンになるまで蓄積するの。そうしたらもう、エネルギーが大きすぎてこの世界にはいられなくなるの…つまり人間の言葉で言う…成仏…みたいなかんじなのかな」
「…確かに、私もなんだか満たされた気持ちだわ」
「リリアはまだやることあるよ。私たちと遊びたいんでしょ?」
「え?ちょっと…まさか」
七緒が顔を引きつらせている。
「しばらくうちで一緒にいればいいと思うんだけど」
那胡は楽しそうにしている。
確かに、先ほどまでの異様な空気感は全くなくなり、むしろ温かさを感じるくらいだ。傷みかけていた床も壁もすっかり復活している。ストーブが灯り、室内は温かい空気に満ちていた。
「パパはかまわないけど…」
七緒がものすごくイヤそうにしている。
「まぁ…ここはあたしんちじゃないし…」
「七緒ちゃん心配いらないよ。リリアの中には桜杜の一部が入ってるから。いい奴の印だよ」
「え…うーん…」
先ほどのおどろおどろしい霊体の数々を見たらそう簡単に割り切れない。それにほかの霊体が消えたのにリリアが残っているのは意味がある。七緒はまだ解決していない何かがあるなと感じていた。

こうして屋敷に住み着いている幽霊のリリアはすっかりきれいになって共同生活をすることになった。





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