サキちゃんも知らない
水滴のたくさんついたグラスは淡いブルーと紫色に光っていた。
繊細なグラデーションは入っている氷に反射して微妙に色が変化している。私は水滴がテーブルの上に少しずつ落ちてくるのを眺めながらペンを握った。
私は忘れたくないことは日記に書くという習慣がある。
今日の飲み会はイレギュラーなメンバーで同業者がほとんどいなかった。どうしてこんな珍しいことになったのかサキちゃんに聞いたら「私もよくわかんないんだよね…」と言っていた。きっと、いろんな都合とか予定外のことが重なったのだろう。
メンバーの中にちょっと不思議な雰囲気の人がいた。彼女は占い師をやっているという。みんなは「占って―」といって楽しそうにしていたけれど、私は占ってもらうよりもその人の日々の暮らしとか趣味とかそういうことを聞いてみたかった。なぜかというと、本当に不思議だったから。
私には特技があった。
どんな特技かというと、会った人がさっきまで聞いていた音楽が聞こえたり、ついさっき親切なことをして誰かに感謝されているとかそういうちょっとしたことを感じ取ることができた。
答え合わせをするとたいていは合っていたから、きっこれは私の特技なんだと思っていた。もちろん誰にも内緒だ。だから誰も知らない。それなのに彼女は
「あなた、感じ取る人なのね」
と言って私の目をまっすぐに見てきた。曇りのない澄んだ鋭い氷のような感覚がした。私の中を射抜かれたような感覚に私はすこしだけ怖くなった。
初めてだったのだ。私は直感で「この人は私よりもいろんなことまでわかっちゃう人なんだ」と感じた。そして、それ以上彼女についていつものように情報を感じ取ることが全くできなかった。
「あれっ?なんで??」
まったく感じ取れなくて、彼女のことは真っ白な世界に転送されてしまったみたいに何もわからなかった。
「だーめ。見せてあげないよ」
そう言って彼女はいたずらな表情を見せた。一瞬で私はそんな彼女に興味がわいてしまった。
「…あの…弟子にしてくれませんか?」
彼女の事を何にも知らないのに私はそんなことを口走っていた。
そういえば…彼女は誰の紹介でこの飲み会に現れたのだろう。それすらも知らないままだ。
私はそんなことをワクワクしながら日記に綴るのだった。