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$横尾忠則ワールド

$横尾忠則ワールド

「これからが本番です」― この言葉は、今年の2月、横尾忠則さんが日本芸術院で新設された<建築・デザイン>分野の会員に選ばれた時の決意表明です。
「43年前に画家宣言をされた横尾さんがなんでデザイン分野なの?」 という疑問も残りましたが、100年を超える歴史を持つ日本芸術院の古い体質に、風穴を開けるような事件。
本展では、横尾さんが日本芸術院に選出された主な評価理由「文学、演劇、音楽、映画、ファッション等、様々な分野に活動の場を拡げた43年前のデザイン」(1960~80年代)に焦点を当てることに。
ただしその対象は、完成品のポスターや書籍ではなく、作品を構成するラフスケッチ、アイデアノート、デッサン。表現エレメントとしてのドローイング、原画、コラージュ。版画やポスターを仕上げるための版下、色指定紙等々、作品完成以前の膨大な「デザイン表現のプロセス」。
横尾さんと親交のあった高倉健が主役の映画『網走番外地』になぞらえば、「横尾さんの仕事の番外の地」と言っても良い。
これらの資料や作品は、横尾忠則現代美術館

下記サイトより引用

のもとですでに約80箱に収納・整理されていましたが、実物に触れる前に資料や作品、収納状況の記録写真18,000点余をチェック。さらに展示のための250点を厳選するのに約2,500枚の出力の山と対峙。そのうず高く積み上げられたコピー紙の山は、すでに「ヨコオアート」の源泉で溢れかえり、「ヨコオアーカイブ」という名のカオス状態。
そして、それらを「丸呑み」することによって、今回の企画展の扉が開いた。

横尾忠則「『週刊朝日』の休刊は、社会に反省と自律を促している」

シン・老人のナイショ話

横尾忠則
筆者:横尾忠則

 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、「週刊朝日」について。
*  *  *
 自分が何を考えているのか、濃霧の中を歩いているようで茫漠としてよくわかりません。僕の絵はそのような状態を描いているのかも知れません。絵には言葉がないが、絵だって言葉にできないけれどれっきとした視覚言語だと思っています。言葉にできない言葉を絵という造型物で語ろうとしているのです。絵の伝達は面白い。見る人が、絵を見て、考えたり、思ったり、直感したりします。意味など考えなくて、いいのです。
 絵は一瞬で世界を語ってしまいますが、文字や言葉にしないと「わからん」という人も結構多くいます。画家からすればそこが面白いのです。小説家は、どういうわけか悩むのが好きそうに見えます。悩んでなさそうな深沢七郎さんだって悩んでおられたのです。また小説家は本を書くことで征服したいんじゃないでしょうか。どうも文学者は作家論など書いて自分のものにして、乗り越えないと気が済まないんじゃないでしょうか。

https://dot.asahi.com/wa/2023060100038.html


アトリエにて

横尾忠則 前編「死とともに生き、描き続ける――横尾忠則の宿命と人生」

2023.03.29

  • 三木あき子連載「現代アーティストな生き方」

  • 横尾忠則

  • 誰かと、ある時、ある場所に共に居合わせた偶然に、何か運命的なものを感じたことはないだろうか。私にとって、それは横尾忠則とのことで、その時、私は日比谷のビルの20階にある控室で横尾と二人で向き合って話をしていた。
    一瞬、会話が途切れ、横尾の視線が不思議に宙を泳いでいることに気付いた時、「揺れてる、揺れてる」と彼が言った。その数秒後、突然大きな揺れが襲ってきて、ただならぬ状況に、我々は慌てて控室を出て、居合わせた人々とともに床に平伏してお互いの肩を抱き合ったりした。
    2011年3月11日14時46分。数十分後に巨大な津波が発生し東日本の太平洋沿岸部を襲い、さらに福島の原発事故を引き起こすことになる地震の発生である。この時の様子は、たまたまその場にいたTV局のクルーによって撮影されており、地震発生時の記録映像として、以降繰り返しTVで流されることとなった。
    後日、横尾が言うには、地震発生前、会場に向かう時に見上げた空が濃いピンク色に染まっていたという。それを聞いた周囲の人間は、誰よりもいち早く揺れを感知し、他者には見えないものが見えるというこうした横尾の霊的エピソードに関心を持っていたが、私はあの時の、頭では理解することの出来ない、人智を超えた自然の大きなちからに肉体的に対峙し、ざわざわとした感情が一気に迫ってくるような感覚を思い出していた。

    それは、ほぼ独学でグラフィック・デザイナーから画家へ転身、コンセプトよりも直観を重視し、膨大な仕事量とメディアへの露出度によって独自のキャリアとポジションを形成してきた横尾の作品世界の根幹にもどこかで繋がっているように思え、この生と死がせめぎ合うような極限状況に横尾と居合わせたことが単なる偶然とは思えず、私の記憶に強烈に刻まれることとなった。




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