不良品集合住宅
いくら閉じても開いてしまう冷蔵庫には、ボロボロに剥がれたシールの群れと錆びたマグネット。
本棚には棒人間やニッコリマークの落書きがされていて、肝心の本はその棚の幅を余分に余し、厚さも種類もバラバラの統一感や綺麗さが0に等しい程。
辺りには、絵の具や僅かな血の染みた跡が残っているシャツなどの洋服類が散乱していて、クローゼットの中のハンガーに掛けようとしても、どれもフックが壊れている。
小難しい文が書いてある紙切れ達はどれもビリビリに破れていて、戻す事は非常に困難だった。他にもレンズの割れた眼鏡や歯が落ちていた。この汚さはとても見せられたものじゃない。
そんな中、木の臭いが充満するこの部屋で男はやる事もなく、ただ座り込んでいた。
そんな彼は今日ついに食料が切れたらしい。
4日前にここへ来て、棚の中を調べ一週間分の食料はあると見越していたが、いざ過ごしてみるとこれである。
最悪なケースが脳裏に浮かび、男は全身から汗をかいた。
「これは本当にまずいことになった……」
汗が頭から滲み、掻きむしった。
男は毎日、朝ご飯を食べた後、家具を一通り壁から退けてみたり、天井を探ったり、助けを呼んでみたりと脱出できる方法を探す。
が、毎度毎度これといった成果は得られず、ただ腹をすかせて後悔するだけてあった。まるで何度学習しても学ばない獣畜の様だった。
哀れなことに今男はその状況である。
男はやる事も無く、キョロキョロと辺りを見渡していると、ファイルやプリントが山積みになった机が目に入った。それを見ると学生時代を思い出した。
男はこの状況下に置かれ、ようやく学生時代のいじめを酷く後悔し始めていた。男は神様なんか到底信じていなかったが、いよいよ死のラインが見えてきたので、藁にもすがる思いで神様に昔のいじめという過ちを犯してしまった事を謝罪した。
その謝罪は心の中で済ますはずが、いつの間にか叫びと共に口から出ていた。だがその言葉は何処にも届くはずがなく、ただ部屋の隅々に虚しく反響し続けた。
それでも、うずくまりながら馬鹿みたいに、何度も何度も自らが行った懲戒を一つ一つ盲目的に吐いていった。
だが、そんな謝罪の一つで許されるわけがない。学生時代、私の時間と精神とあるはずだった夢さえ奪っていった男に同等の苦しみを与えるのは当然の事だ。今彼にとっての神様は私だ。今現実の無能な神様に変わり私が彼に鉄槌を下す。
私は男をモニター上から強く睨んだ。
許される条件は一つしか無い。それは私のコレクションの一部になることだ。この悪質な不良品達の集まりの中の一つになる事ただそれだけ。
醜い顔、低能で阿呆な知能、ボロボロで変色した衣服、男は絶対に悪質な人間としてこの部屋のコレクションの一部にさせる。
いや、この場合は、悪質な死体としてと言った方が正しいのだろうか。