人助け
ある日男が公園を散歩をしていると女がうずくまりながら両手で芝生の草を掻き分けていた。
話を聞くと、どうやらハンカチを落としてしまったらしい。
猛暑の中一人で探すのは辛いだろうと想い、善意で男も探しに加わった。
男が少し離れたベンチの影でハンカチを見つけると、女は感謝を伝えた。
男は少しだけ嬉しかった。
またある日、男が買い物に出かけていると、長い階段のそばで立ち止まった老婆を見つけた。
老婆の背負っている荷物を見て重そうだなと思い、持ちましょうかと声をかける。
すると老婆の表情は煌びやかに晴れ、もういいと遠慮するほど感謝を伝えてきた。
またまたある日、木々が生い茂った小さな林の様な公園で子供が風船を誤って離してしまった。
それがやや高い木の枝の間に挟まり、取れなくなってしまった。
男はすかさず木の下に行き、ジャンプをして取り子供に渡す。
またまたまたある日、困っている人が見つからなくなった。公園や商店街、何処にいっても見つからない。
諦めかけた時、駅前で募金をしている青年団体を見つけた。これだと思い、持っていた財布をがむしゃらに振り全額を突っ込む。
またまたまたまたある日、歩いてくる者全員に聞いても、街中を何周しても困っている人は見つからない。男は隣の街へ行き、困っている人を探した。
暗い路地で少年が悪そうな男3人に絡まれていたので理由は知らないが持っていた大きな水筒を男達に振りかざした。血が出た。でも叩く、そしてもう一回叩く。少年は逃げた。男達は動かなくなった。
またまたまたまたまたある日、ついに困った人がいなくなった。だが男は困っていた。
だからとにかく探し回る。自分を助ける為に。他者を助ける為に。
公園に中年の男がいた。中年の男はボソっと呟いた。
「あーあ。こんな世界クソな人間ばっかりだ。死ね死ね死ね死ね。まじで皆死んでくれよ。」
またまたまたまたまたまたある日、男は人混みの中で徐ろに刃物を出す。
そして、その刃物を前の人間目掛けて振り上げる。
人助けが中毒化してしまった男は、他人は勿論、もう自分を自分で止める事もできなくなってしまった。
いや、止めることなどしない。
男はそれを悪行などと思ってはいない。