認知症の母:デジタル遠隔介護 『資産調査』は最大の難関。知らないことだらけでもうヘロヘロ。
2024年5月の今。
会うと必ず母は
「お金欲がないの。お金ちょうだい」と言う。
「ママのお金はちゃんとあるよ」
このやりとりを毎回3往復はする。
そう。
『お金』だ。
介護が始まると同時に『お金』が問題になる。
そもそも母はいつもどこでどんな買い物をしているのか。どんな形で貯めているのか持っているのか。全く知らなかった。
アルツハイマー型認知症はゆっくりと症状が進む。母は60歳を過ぎた頃に話題が飛んだり日時を覚えられなくなり、20年をかけてとうとう介護が必要な状態になった。その間に、母がお金をどうにかしててもわからない。
本当はどうだろうか。
2021年には「要介護1」と認定され、2022年の1月から介護保険利用がスタートした。同年2月になると何故かあちこちから請求書が届き、とりあえず支払いに追われた。同時に、介護制度の仕組みが全くわからずあちこちに出向いて相談、介護スタッフの面接、契約。毎回片道1時間かけて母の家を訪問し調べたり勉強したり。
猛烈に忙しかったが、母の『資産全体』を知ることが先ではないかと考えるようになった。これからの介護を考える際の、最も重要な要素だと思ったからだ。
母はもともと経理の仕事をしていただけあって、書類はファイルに整理されていた。これを一つ一つ見ていくしかない。
お薬説明書が一つのファイルにしてあったので見ると、認知症薬を処方されたのは2018年だった。4年前だ。全く知らなかった。
「運転免許証の返納」をしたのは確かその頃だったと思う。小さい交通事故を繰り返していたので、突然本人から返納を言い出してくれてホッとしたものだ。
私たち家族には知らせてくれなかったが、すでに母は自分が認知症だと自覚していた。
資料探し
お金関係のファイルもたくさんあったが、一筋縄ではいかなかった。
銀行口座や証券、生命保険などを一覧にまとめたいわば「目次」のようなものが複数あったが、そのどれもがほとんど変更されていた。
解約と追加がたくさんあってどれが正しいのかわからない。
諦めて、1から調べることにした。
お金の流れを調べる。まずは銀行
介護が始まってから思い出したが、母は2019年に銀行口座のインターネットバンキング化していた。銀行の窓口やATMは減る傾向だからと当時私が勧めたからだ。私が手伝って2ヶ月ほどかかって3つの銀行をネット化した。
それがアクティブであることを確認。
それと別に、年金口座はゆうちょ銀行を使っていた。
他にもネットバンクもあったが小口なので閉じる方向で考えて、この4つの口座の過去1年間の取引を、表計算ソフトに書き出しお金の流れを調べた。
それで分かったのは、母は「収入口座」と「支払口座」を分けているということ。そのために定期的に支払い口座に数十万円ずつ移動させていた。
その支払い口座への入金が滞り、残高不足で請求書が続々届いた。
賢い。
経理業務をやっていた母らしい管理だと感心した。
これで現金がいくらあるのかは概ねわかった。
民間保険の加入
民間の保険に入っているのか?
全く知らなかった。
でも資料はあちこちにたくさんあった。
何に入ってるかわからなかったが、2022年2月に支払口座の残高不足で保険料の請求書が届き、思ったより早く加入を知ることになった。
母の口座仕分けがすぐに効果を出したことになる。
他にも、口座引き落としの支払先で確認できた。
不動産の数
賃貸のワンルームマンションを持っていることは知っていた。
権利書がないとわからないかと思ったが、3月?に固定資産税の納付書が郵送されてきたことで分かった。
ちなみに不動産は日本中に何件所有していても、固定資産税納付書は1通にまとめられて届く。
また『固定資産税の対象評価額』が『相続税の対象評価額』となることも学んだ。
金融資産
証券会社からの書類は定期的に届き電話もかかってくる。そのお陰で所有商品は明確で、母は投資信託と満期間近の外貨を少し持っていた。
担当者には介護が始まったことを話したが、系列銀行に連絡が行くと銀行口座凍結の可能性もあると思い、あえて認知症とは言わなかった。
ただ母はいつも快活に「株はね、下がったからと言って売らない。いずれ上がるから」と言い切り担当者を黙らせた。母はお金についての意見がはっきりしている。本当に認知症なのかと私も驚いた。
それより私には資料を読み取ることが難しくて困った。「評価額」を見ればいいと分かったもののコロナとウクライナの影響か、驚くほど目減りしていた。
その後、認知症が進行したことで証券会社からの電話も来なくなった。認知症では売買契約はできないのでそのまま手付かずになっている。
必要生活費の試算
銀行口座の動きで概ね調べがついたが、不要な支払いがいくつもあった。
中には1年に1回しか請求が来ないものもあり、1年間以上かけて徐々に解約していった。
家の維持費や光熱費と食費、医療費以外で大きい出費は、「犬に関わる費用」と「本人の美容院代」だ。これは老人ホームに入った今でも変わらない。
生前贈与
「贈与税を勉強しなさい」
と2021年の11月の深夜に母から言われたことがある。なんのこっちゃと放っておいたがまさに知る必要が出てきた。
贈与は最低10%の税金がかかるが、基礎控除があり一人に1年間で110万円以下であれば申告も納税もしなくていい。暦年贈与という制度もあるので、うまく使えば相続税納付のボーダーラインを下回らせることができる。
でも、認知症になると生前贈与は成立しない。
本人も家族も、認知症とは知らなかった状態なら有効かもしれないが、それでも相続発生からさかのぼって7年間分の贈与は全て無効になる。
母は「資産を上手に減らしなさい」と私に言いたかったんだろうが、もっと早くから母自身が生前贈与をやっていてくれれば良かったのにと思う。
資産目録の完成と報告
3ヶ月の間に100時間以上かけて、A3に12ページにもわたる資産調査票を作成した。
私にとってはこれからの介護計画のためだが、母にとっては『不安の解消』だった。
「お金はある。困らない」と理解して感じて安心することが大事だった。
すぐに忘れてしまうけれど。
2022年5月。家族会議を開いて資産目録を渡して説明。
母は喜んでいた。
資料作りのあまりの大変さに終わった直後に倒れそうになったが、とりあえず一つの山を越えて私も満足だった。
何より母の財産の全貌が見えたことで介護の内容を決めやすくなった。
母はいまだに「お金がないの。ちょうだい」と言う。
お金に困ることをひどく嫌う人だ。
その意思を私は守ろうと思っている。
母のためになる出費は惜しまないが、無駄はしたくない。
ただ残念なことに、弟が一番の問題だ。
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