「AIの目」を備えたドローンによる目視外自律飛行・・・・・・・中国や米国では既に都市部で本格化
第1章 我が国におけるドローンの目視外自律飛行の現状
ドローンによる空の産業革命(究極は都市部での目視外自律飛行によるドローンの多様な活用)に向けて、我が国では、レベル3が2018年9月に解禁され、レベル4が2022年12月に解禁され、レベル3.5が2023年12月に解禁されました。
しかし、以下の第1節〜第3節に記載のとおり、飛行の安全確保に係る人的コスト等の面から、我が国ではいずれのレベルにおいても、ドローン配送に向けた単発的な試験運行に留まる事例がほとんどです。
第1節 厳格な立入管理措置が必要なレベル3
レベル3(無人地帯における補助者なしの目視外飛行)は、2018年9月14日に国土交通省が改正した「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」により解禁されました。
しかし、無人地帯の中にある道路や線路等については無人地帯とは見做されず、このような道路や線路等の上空をドローンが横断飛行するには、以下3点の立入管理措置が必要とされています。
① 道路や線路等の上空をドローンが横断飛行する旨を注意喚起する看板の設置
② 道路や線路等の上空をドローンが横断飛行する際の安全を確認する補助者の現場配置
③ ドローンが道路や線路等の上空を横断する前に一時停止
つまり、予め決められた飛行ルート上を操縦者の遠隔操縦によりドローンを飛行させる必要があり、また、道路や線路等をドローンが横断飛行する際には現場に補助者を配置しなければならないということです。
このように厳格かつ人手を要する立入管理措置を求められたことが、レベル3で本格運行がなかなか実現しない最大の理由です。
第2節 立入管理措置を緩和したレベル3.5が解禁
レベル3では、厳格かつ人手を要する立入管理措置が本格運行の大きな支障となっていたので、国土交通省は、「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」を2023年12月26日に改正して、レベル3.5を解禁しました。
具体的には、以下3点の条件を満たした場合には厳格な立入管理措置を不要として、無人地帯の中にある道路や線路を走行中の自動車や電車の上空を、ドローンは一時停止することなく横断飛行できるようになったのです。
① 操縦者は無人航空機操縦者技能証明を保有していること
② 飛行中のドローンに不測の事態が発生した場合に十分な補償が可能な第三者賠償責任保険に加入していること
③ ドローンに搭載したカメラにより進行方向の飛行経路の直下及びその周辺への第三者の立ち入りが無いことを操縦者は確認できること
つまり、レベル3.5の飛行では、FPV(ドローン搭載カメラからのリアルタイムな映像)に基づく操縦者の目視判断による飛行途上の安全確保が求められているということです。
このため、レベル3.5では、GPS等の衛星測位に基づく自律飛行により全行程を無人運行とすることはできません。
第3節 立入管理措置を要しないレベル4でも自律飛行は不可
レベル4(有人地帯における補助者なしの目視外飛行)は、2021年の航空法改正に基づき、2022年12月5日に解禁されました。
具体的には、以下3点の条件を満たした場合には、有人地帯の上空をドローンは補助者なしで目視外飛行できるようになったのです。
① 一等無人航空機操縦士の資格保有者が飛行させること
② 第一種機体認証を受けた機体を飛行させること
③ 国土交通大臣の許可・承認(運行管理方法の確認等)を受けて飛行させること
しかし、2023年中に3回の試験運行(3月に東京都奥多摩町、11月に沖縄県久米島町、12月に東京都檜原村)が実施されたのみであり、レベル4で本格運行に至った事例はありません。
ここで、有人地帯において立入管理措置を要しないレベル4であるからこそ、国土交通大臣の許可を受ける上で、FPVに基づく操縦者の目視判断による飛行途上の安全確保が常に求められていると言えます。
このため、GPS等の衛星測位に基づく自律飛行で全行程を無人運行とすることは、レベル4でも許可されないのが現状です。それゆえ、3回の試験運行を実施した地域では、何処も人手等のコスト面の制約から、本格運行への移行が難しいのです。
第2章 海外におけるドローンの目視外自律飛行の現状
第1章に記載のとおり、我が国におけるドローンの目視外飛行は、FPVに基づく操縦者の目視判断により、有人地帯における飛行途上の安全を確保することが大前提となっています。
他方、海外(特に中国と米国)では、「操縦者の目」に代わる「AIの目」を搭載したドローンを開発して、ドローンの運行管理体制全般にわたって飛行の安全確保策を講じることにより、規制当局(中国民間航空局や米連邦航空局)から個別の審査と許可を受ける形で、都市部での目視外自律飛行が本格化しています。
このため、我が国でもレベル3.5やレベル4における目視外自律飛行を早期に実現する上で、中国や米国で既に本格化している都市部での目視外自律飛行の実施事例を調べて参考とすることが、効果的かつ効率的であると言えます。
そこで、「AIの目」を搭載したドローンにより都市部での目視外自律飛行を日常的に行っている事例として、中国の美団(メイトワン)社、米国のAmazon社、米国のSkydio社のそれぞれについて、次の第3章から第5章で具体的に紹介します。
第3章 中国の美団(メイトワン)社の事例紹介
第1節 美団社は、独自開発したドローン配送システムにより飛行の安全を確保
中国トップのデリバリー企業である美団(メイトワン)社は、高層ビルが林立する深圳市内で、目視外自律飛行によるドローン配送サービスを正式営業しています。
2023年11月までに深圳市内で20本近くの配送ルートを開設しており、飲食品などの累計配送件数は約21万件に上っています。
このようなドローン配送サービスが実現できた鍵は、次の(1)から(4)に記載する4項目を主柱とする「高層ビルが林立する大都市でドローン配送を実現するための独自戦略」でした。
(1) 配送用ドローンのメカニカルな信頼性の確保
美団社が独自開発したドローンは、ローターやバッテリーの冗長性とパラシュートの搭載により、機体のメカニカルな信頼性を確保しています。具体的には、次のとおりです。
① ローターの冗長性
ローターが4つのクアッドコプターでは、1つのローターが故障すれば、残りの3つのローターで安全に不時着することは困難です。
そこで美団社では、ローターが6つのヘキサコプターを開発しました。
ヘキサコプターでは、1つのローターが故障しても、残りのローターで不時着エリアまで安定して飛行することができます。
また、2つのローターが故障しても、残りのローターでその場に安全に不時着することができます。
② バッテリーの冗長性とパラシュートの搭載
美団社のドローンは、2つの着脱式バッテリー(メインとサブ)と、1つの内蔵バッテリー(緊急用)を備えています。
メインバッテリーが失われた場合には、サブバッテリーを用いて最寄りの不時着に適したエリア((2)に具体的に記載)まで飛行して不時着します。
サブバッテリーも失われた場合には、内蔵の緊急用バッテリーを用いてパラシュートを展開して、ゆっくりと降下します。
(2) 「AIの目」による臨機応変な不時着戦略
美団社のドローンは、「AIの目」で不時着に適した場所を常に探しながら飛行し、機体に不具合が生じた場合には、近傍の不時着に適した場所に自動的に着陸します。
このような仕組みにより人的被害を限りなくゼロに近づけることができたので、高層ビルが林立する大都市でのドローン配送が可能になったと言えます。具体的には、次のとおりです。
① 「AIの目」で不時着に適した場所を探しながら飛行
美団社のドローンは、搭載したカメラで地上の状況を撮影しながら飛行し、オンボードのAI画像解析により、自動車や人をリアルタイムに認識し続けます。
また、自動車や人がいない一定以上の平面(空き地や建物の屋上など)を、不時着に適した場所としてリアルタイムに認識し続けます。
② 機体に不具合が生じた場合には自動的に不時着
美団社のドローンは、いずれかのローターの停止やメインバッテリーが失われるなどの不具合が生じた場合には、残りのローターやサブバッテリーを使用して、近傍の不時着に適した場所に自動的に降下して着陸します。
(3) ドローン同士の接触・衝突を自律的に回避する飛行空域管理
美団社のドローン配送サービスでは、高層ビルが林立する大都市内に設定した固定路線(数ヶ所の配送拠点と数十ヶ所の配送ステーションを結ぶ多数の固定路線)を複数のドローンが往復するので、接触や衝突を避けるための飛行空域管理が欠かせません。
そこで美団社では、固定路線に沿った飛行空間を、時間軸を含めた四次元の空間ブロックに分割して、飛行ルート先の四次元空間ブロックが他のドローンにより占用又は予約されている場合には、占用又は予約されていない四次元空間ブロックを選択してその中を飛行することにより、他のドローンを自律的に回避できる飛行空域管理の仕組みを構築しています。
また、このような仕組みが機能するためには、各ドローンは自機の空間位置を正確に把握する必要があります。
しかし、衛星測位システム(中国のBeiDouや米国のGPSなど)の測位信号電波は高層ビル等で遮られたり乱反射が生じるため、高層ビルが林立する大都市での衛星測位は精度が劣化しやすいのです。
そこで美団社では、独自開発したVisual-SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の技術、つまり、単眼カメラの空間移動に伴う複眼効果で周囲の三次元空間状況を効率的に把握する技術を用いて、オンボードの三次元デジタル地図と照合することにより、各ドローンが自機の空間位置を正確に把握できるようにしています。
(4) 配送ステーションによる配送品の受け渡し
美団社のドローンが、配送品を注文者に直接届けるために地上や屋上の任意の場所に着陸しようとすれば、安全確保の徹底を図ることは非常に難しくなります。
そこで美団社は、4m程の高さがある配送ステーションを開発したのです。
ドローンが配送ステーションのスライド天井に着陸すれば、梱包箱に入った配送品だけがスライド天井からステーション内部に取り込まれるので、その後、ドローンは配送拠点に向けて速やかに帰還することができます。
この配送ステーションは宅配ボックスの機能を兼ねているため、配送品の注文者は、注文時に用いたスマホの電話番号の下4桁をテンキーで入力すれば、配送品を受け取ることができます。
美団社のドローン配送システムでは、このような配送ステーションで配送品を受け渡しすることにより、配送用ドローンが人と接触する事故を防止しているのです。
第2節 美団社のドローンによる商品配送の手順
美団社のドローン配送システムにおける、注文の受付から配送ステーションへのドローン配送完了までの手順は、次の4段階です。
【1】 美団社のドローン配送に対応しているショッピングモール内の店舗に対して、スマホのアプリで注文品と配送先ステーションを指示して直接注文する。
【2】 ショッピングモール屋上のドローン配送拠点にいる美団社のスタッフが、注文を受けた店舗から注文品をピックアップして、美団社専用の梱包箱に入れてドローンの下部に積載する。
【3】 注文品を積んだドローンは、深圳市内に設けたコントロールセンターからの監視・制御により、配送先ステーションまで飛行する。
【4】 配送先ステーションに到着したドローンは、ステーション上面のスライド天井に着陸して注文品を降ろし、ショッピングモール屋上のドローン配送拠点に向けて飛び立ち帰還する。
第3節 美団社のドローン配送システムの開発・実用化の経緯
美団社のドローン配送システムは、2017年に検討を開始して、その6年後の2023年に中国民間航空局から運航承認書と営業許可証を受けていますが、その間の具体的な経緯は次のとおりです。
【2017年】 美団社は、ドローン配送プロジェクトを2017年11月に立ち上げて検討を開始した。当初は、市販のドローンを用いて配送に向けた実機テストを行ったが、市販のドローンでは高層ビルが林立する大都市での配送には向いていないことが判明した。
【2018年】 高層ビルが林立する大都市での配送に向けて、2018年2月にオリジナルドローンの開発に着手し、2018年6月に最初の試作機が完成した。
(ちなみに、2023年7月に美団社が公開した第四世代ドローンのスペックは、最大積載重量が2.5kg、最大離陸重量が9.5kg、満載時の最大配送距離が約10km。また、摂氏-20度から50度までの気温、小雨、小雪、6m/sの風といった環境において安定した飛行が可能)
【2020年】 2020年1月に深圳市で最初の試験飛行を行い、その後は実際の注文を受けながら試験営業を続けた。
【2023年】 2023年2月に中国民間航空局は、美団社のドローン配送サービスに対して、正式営業に必要な運航承認書と営業許可証を発行した。
2023年4月の時点で、5つのショッビングモール屋上の配送拠点と、オフィスビルやマンションの近傍に設置された18カ所の配送ステーションを結ぶ固定路線が設定され、2万世帯に相当するオフィスワーカーや住民に対して、飲食品、化粧品、日用品など2万種類を対象とするドローン配送サービスを実施している。
【2024年】 2024年12月の時点で、深圳に加えて北京、上海、広州などに計53本のドローンによる配送ルートを開設し、これまでに40万件超のドローン配送サービスを実施している。
また、美団社は、これまでは中国国内で展開してきたドローン配送サービスの海外への展開を開始し、2024年12月に中東ドバイの民間航空局から、ドバイにおける目視外飛行によるドローン配送に向けた商業運用資格証明書を取得している。
第4章 米国のAmazon社の事例紹介
第1節 Amazon社が開発した、「AIの目」を備えた完全自律型ドローン
Amazon社は、「AIの目」を備えた完全自律型ドローンを独自開発して、FAA(米連邦航空局)から目視外飛行の許可を受け、都市近郊エリアにおいて、有人航空機が飛行する空域ではない高度400フィート(約120m)以下の空域でドローン配送サービスを実施しています。
Amazon社の完全自律型ドローンの特徴とFAAから目視外飛行の許可を受けた経緯について、次の(1)と(2)に記載します。
(1) Amazon社の完全自律型ドローンの特徴
Amazon社が独自開発した配送用ドローンの最大の特徴は、ドローン搭載カメラ映像に基づく「Sense and Avoid System」を搭載して、静止物体や移動物体をAI(ディープラーニング)で判別して自律的に回避できることです。
このような完全自律型ドローンを用いて、Amazon社は、UTM(無人機運行管理システム)に依らないドローン配送サービスを「Amazon Prime Air」として実施しています。
Amazon社の配送用ドローンMk27-2(FAAから目視外飛行の許可を受けた最初の機種)について、上記以外の特徴は、次の①と②のとおりです。
① 機体重量36kgの大型ドローン、最大積載量は約2.2kg、最大速度は約80km/h
② 垂直離陸した後、ローターを覆っているカバーを固定翼として用いて水平飛行
(2) Amazon社がFAAから目視外飛行の許可を受けた経緯
2024年5月にAmazon社は、ドローン配送サービスの事業拡大に必要となる目視外飛行(BVLOS : Beyond Visual Line of Sight)の許可を、FAA(米連邦航空局)から受けたと発表しました。
目視外飛行の許可取得の鍵となったのは、オンボードテクノロジーとしてドローンに搭載した「Sense and Avoid System」の信頼性が、FAAに評価されたことでした。
目視外飛行の許可取得に向けてAmazon社は、システムの設計方法、運用方法、保守方法、システムが指定された要件に従って動作することを検証する方法といった、技術情報や技術検証分析データをFAAに提出しました。
次に、FAAの検査官立ち会いの下で実飛行デモを実施し、飛行機、ヘリコプター、熱気球と共に飛行したAmazon社のドローンが、いずれも安全に回避できることを実証しました。
さらに、システムの安全性を検証するために必要となるテクノロジーの広範な分析結果とテストデータについても、FAAに提出しました。
FAAは、これらの情報を確認し、テストサイトでシステムの動作を確認した上で、「Sense and Avoid System」を搭載したAmazon社のドローンに目視外飛行を許可したのです。
第2節 Amazon社の完全自律型ドローンによる商品配送の手順
Amazon社の完全自律型ドローンを用いた「Amazon Prime Air」における、注文の受付から配送先の裏庭までのドローン配送の手順は、次の3段階です。
【1】 「Prime Air配送センター」で注文を受けた配送品を、Amazon社のスタッフがドローンの機体内に手作業で搭載し、「グラウンドステーション」が飛行経路と配送先の地点を指定して飛行を開始する。
【2】 配送先までの飛行中は「Sense and Avoid System」を用いて、煙突などの静止物体や有人ヘリコプターなどの移動物体を検知した場合には、衝突しないように飛行経路を自律的に変更する。
「Sense and Avoid System」は、植えたばかりの高木や飛行経路下に移動してきたクレーン車など、前日には存在しなかった物体を検知して回避できることから、飛行環境の変化への対応力が高いことが大きな特徴である。
【3】 配送先の裏庭に設置した配達マーカーの上空に到着した後、「Sense and Avoid System」を用いて、電線、人、ペット、その他の障害物を避けるように降下して約3.6mの高さでホバリングし、商品を投下(このため、壊れやすいものや溢れやすいものの配送には不適)する。
その後、40m〜120mまで高度を上げて「Prime Air配送センター」に帰還する。
第3節 Amazon社の完全自律型ドローンの開発・実用化の経緯
Amazon社は、完全自律型ドローンによる「Amazon Prime Air」の概念を2013年に提唱して、その11年後の2024年に、完全自律型ドローンによる目視外飛行の許可をFAA(米連邦航空局)から受けていますが、その間の具体的な経緯は次のとおりです。
【2013年】 Amazon Prime Airの概念を提唱した。
【2016年】 英国で実証実験を実施した。
【2020年】 航空運送事業者証明書をFAAから取得した。
【2022年】 米国カリフォルニア州ロックフォールドとテキサス州カレッジステーションで試験配送を開始した。
両地域に新設した「Prime Air配送センター」から半径3マイル(約4.8km)のエリアにおいて、重さ5ポンド(約2.2kg)以内の商品(単三乾電池などの生活必需品が中心)が、注文から1時間以内にドローンで裏庭に配送される。
【2024年】 2024年5月、目視外飛行の許可をFAA(米連邦航空局)から受けたAmazon社は、テキサス州カレッジステーションでの業務を拡大し、より人口が密集した地域の顧客にもサービスを提供していくことを発表した。
2024年11月、アリゾナ州フェニックス都市圏のウェストバレーで、新型機MK30によるサービスを開始した。
今後、英国、イタリアにもサービスを拡大する予定である。
ちなみに、新型機MK30は、Amazon Prime Airチームの専門家集団が、約2年の歳月をかけてゼロから設計・開発して、FAAから目視外飛行の許可を取得した機体であり、次の①から⑤に記載する特徴があります。
① MK27-2と比べて、小型、軽量、騒音を半減、航続距離は約2倍で小雨でも飛行可能
② 「Sense and Avoid System」の能力アップにより、洗濯物干しロープなどの衛星画像では判別できない障害物を検知して回避できるので、狭い裏庭にも約2.2kgまでの配送が可能
③ 「Sense and Avoid System」は、ディープラーニングの手法により、人間や動物、障害物、他の航空機を正確に識別するよう訓練されている。
④ 飛行に欠かせない機能や装置を冗長化して、どのような単一障害が発生しても飛行制御が失われないようにした。
⑤ MK30の飛行制御アルゴリズムを監視するシステムを開発して、飛行中の異常を検知した場合には、即座にバックアップ系の機能や装置に切り替えて安全に帰還させる。
第5章 米国のSkydio社の事例紹介
第1節 「AIの目」で障害物回避飛行するSkydio社のドローン
Skydio社のドローン(現行機種は、Skydio2+、SkydioX2、SkydioX10の三機種)はいずれも、Visual-SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の技術とディープラーニングの手法を組み合わせて実現した「AIの目」を備えており、飛行ルート上にある障害物を「AIの目」で自律的に回避しつつ高速で飛行できます。
具体的には、機体の上下面に計6個搭載したナビケーション専用4Kカメラに基づくVisual-SLAMにより、機体の360度全方位の三次元空間状況をリアルタイムに把握しています。
そして、機体に搭載した組み込みAIコンピュータ(NVIDIA社のJetsonシリーズ)上でのディープラーニングにより、直径1.5cm以上の電線などの障害物を回避する飛行ルートをリアルタイムに算出して、高速(SkydioX10では最大水平速度約57km/h)かつ自律的な障害物回避飛行ができるのです。
特にSkydioX10では、機体に搭載した可視光ライトまたは赤外線ライトを点灯するNightSenseモードにより、暗闇の中でも障害物回避飛行ができます。
NightSenseモードは、SkydioX10に搭載した組み込みAIコンピュータやナビゲーション専用4Kカメラの性能を、Skydio2+やSkydioX2と比べて約10倍に高めることにより実現しています。
SkydioX10の主なスペックは、次の①から⑤のとおりです。
① 機体サイズは311×256×57mm、機体重量は2.14kg、最大離陸重量は2.49kg
② 最大水平速度は約72km/h、障害物回避飛行時の最大水平速度は約57km/h
③ 最大風圧抵抗は約12m/s、最大飛行時間は約40分
④ 機体保護等級はIP55、パラシュートを搭載可能
⑤ Wifi6による無線接続が弱くなれば自動的にモバイル通信(4GLTE、5G)に切替
第2節 SkydioX10の遠隔無人運用を支える専用ドローンポート
NightSenseモードにより夜間でも障害物回避飛行ができるSkydioX10は、専用ドローンポート(Dock for X10) と組み合わせて、遠隔操作プラットホーム用ソフトウェア(Remote Ops)を用いることにより、ネットブラウザを介して任意の遠隔地からのオンデマンドで、夜間も無人運用できます。
このような遠隔無人運用を支える仕組みは、次の①から③のとおりです。
① Dockに装備した気象センサーやADS-B受信機(第3節の(3)に具体的に記載)を用いて、天候やヘリコプター接近の有無を遠隔で判断できる。
② Dock内のカメラ等を用いて、SkydioX10の飛行前点検を遠隔で実施できる。
③ SkydioX10は、Wifi6による無線接続が弱くなれば、自動的にモバイル通信(4GLTE、5G)に切り替わる。
第3節 ニューヨーク市警は、ニューヨーク市内でSkydioX10を24時間遠隔無人運用
ニューヨーク市警は、2024年9月にFAA(米連邦航空局)から、ニューヨーク市内でSkydioX10を24時間遠隔無人運用する許可を取得しました。
これによりニューヨーク市警は、我が国の110番・119番通報に相当する911通報により事件や事故の発生を認知した場合には、直ちにドローンポートからSkydioX10を飛び立たせて現場に急行させ、SkydioX10に搭載されている高精細可視光カメラやサーマルカメラにより俯瞰的に撮影した現場映像を、警察や消防等の関係機関でリアルタイムに共有できるようになりました。
大都市上空に世界で最も複雑な空域を擁しているニューヨーク市内で、ニューヨーク市警がFAAから上記の許可を受けることができたのは、次の(1)から(3)に記載する3つのキーポイントによるものでした。
(1) 1つ目のキーポイントは、シールドオペレーション
ニューヨーク市警はシールドオペレーションとして、地上高200フィート(約60m)以内、または建築物の最上部から50フィート(約15m)以内でのドローンの運用を許可されました。
このようなシールドオペレーションにより、地上高500フィート(約150m)以上を飛行する有人航空機との間に緩衝帯が設けられ、低空飛行する有人航空機に遭遇する可能性を減らすことができます。
(2) 2つ目のキーポイントは、SkydioX10の夜間も含めた障害物回避飛行
シールドオペレーションでは、低空飛行する有人航空機に遭遇する可能性は減りますが、建築物に衝突するリスクは高まります。
しかし、SkydioX10であれば、夜間でもNightSenseモードを使用した障害物回避飛行ができるため、建築物に衝突するリスクを払拭することができます。
(3) 3つ目のキーポイントは、ADS-B受信によるヘリコプターの監視と回避
ADS-B (Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)とは、有人航空機に搭載した送信機から、当該機の位置、高度、速度、進行方向等に関する120ビットの情報を、1090MHz帯の電波を用いて、0.4〜0.6秒のランダムな時間間隔で、半径数百kmの全周囲に送信する航空交通監視技術です。
Skydio社は2023年から、ADS-B受信機能を専用ドローンポートと遠隔操作プラットホームに組み込んでいます。
また、米国では、ニューヨーク市等の上空を飛行する有人航空機に、ADS-B送信機の搭載が義務付けられています。
このため、救急ヘリコプター等が地上高200フィート(約60m)以内を飛行する場合には、ドローンオペレーターは、低空飛行する救急ヘリコプター等に関するリアルタイムな情報(位置、高度、速度、進行方向等)をADS-Bから得て、ドローンの回避操作が必要かどうかを迅速に判断することができます。
【 この記事の出典 】
この記事は、2025年2月14日に(株)新技術開発センターが開催するセミナー【ドローン技術の最新事情】のプレゼン資料の中から、第6章と第7章の内容を抜き出して再構成したものです。
また、この記事に記載した詳細事項の出典は、次のとおりです。
(1) 2024年10月7日付日経電子版記事【 中国で「低空経済」が救世主に ドローン配送が急拡大 】
(2) 2023年9月27日付ジェトロ ビジネス短信【 デリバリーサービス大手の美団、ドローン配送サービスを正式に開始 】
(3) 2023年2月22日中華IT最新事情記事【 深圳という大都市でドローン配送を可能にした美団の7つのテクノロジー 】
(4) Amazon社HPの2024年11月5日付ニュース記事【 Amazonのドローン配達がアリゾナで開始 】
(5) 2024年6月6日付JBpress記事【 Amazonの配達ドローン、米で「目視外飛行」許可 】
(6) Amazon社HPの2023年10月30日付ニュース記事【 Amazonがイタリアとイギリス、および米国内3か所目となる地域でのドローン配送の開始を発表 】
(7) Skydio社のHP(https://www.skydio.com/ja-jp)
(8) 2024年10月4日付ドローンジャーナル記事【 Skydio、SkydioX10用ドローンポート「Dock for X10」発表 】
(9) Skydio社HP掲載の2024年9月23日付ブログ記事【 FAA、NYPDに画期的な承認を発行、目視監視なしでドローンを第一応答者として運用 】
【 (株)新技術開発センターのセミナー「ドローン技術の最新事情」 】
《ドローンに関する澤田雅之のプロフィール》
1978年に京都大学大学院工学研究科を修了し警察庁に入庁。警察情報通信研究センター所長を退職後に技術士資格(電気電子部門)を取得して、2015年に技術士事務所を開業。同年の首相官邸ドローン落下事件を契機として、カウンタードローンに関する調査研究を開始。伊勢志摩G7サミット、大阪G20サミット、ラグビーW杯、東京オリンピック等に向けて、警察庁、警視庁、海上保安庁、経済産業省、関係府県警察本部等でカウンタードローンについて講演。2018年以降は空の産業革命に向けたドローンの利活用にも調査研究の対象を拡大し、これまでに多数の執筆や講演を実施