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ほんまる神保町で、棚主へ13

若い頃、倉庫で派遣アルバイトとして働いていた時期がある。コロナ禍よりずっと前の話だ。

ある日、インフルエンザで休んだ同僚がいた。社員が、「陽性だったみたいです」と教えてくれたのだが、「陽」という明るい字面に引っ張られて「インフルエンザじゃなかったってこと?」みたいな空気が広がった。
コロナ禍で「陽性」という言葉が正しく認識されるようになったが、その当時の私の同僚はそんな感じだった。私を含め、全員ちょっと馬鹿だったのである。

その職場での同僚に、タケさんと呼ばれる五十代の男性がいた。職人気質というか、黙々と自分の仕事に専念するような人で、普段は冗談一つ言わない。
そのタケさんが突然、「♪陽性たちが夏を刺激するっ」と歌いながら踊った。TMレボリューションの曲である。
「陽性」というワードを耳にし、いまやれば絶対ウケるという確信を持ってのギャグだったのだろう。
しかし普段、そういった冗談などを口にしない人が突然ふざけてみせると、「滑る」ではなく「困る」が発生する。

瞬時に張り詰める緊張感。
タケさんは焦ってリカバリーをしようとしたのか、「私は妖精!」と言いながら通路に飛び出してフォークリフトに撥ねられた。

最初に「陽性」というワードが出てから十秒程度でタケさんは床に転がった。
この件はわりと大ごとになり、救急車が来てタケさんは搬送され、警察まで来た。
タケさんが軽傷で済んだのは不幸中の幸いだった。

その倉庫内には監視カメラが設置されており、事故の瞬間が捉えられていた。
だが、音声までは拾えていない。
映像だけ見ると、デスノートに死の直前の行動を書き込まれたとしか思えない動きでタケさんは飛び出しており、我々から詳しい事情を聞く前に映像を目にした上司が、「めちゃくちゃ怖かった」と涙目で訴えたほどだった。

♪陽性たちが夏を刺激する──私は妖精(どんっ
の流れは目の前にいた私すらも置き去りにするほどのスピード感だった。


スピード感といえば、2024年7月5日から7月10日までの間に、私の棚から三冊もの本が売れた。棚主の私すらも置き去りにするほどのスピード感だ。

こうなってくると、在庫が心配になってくる。どんどん入荷しないと、すかすかの棚になってしまう。嬉しい悲鳴だ。
私にとっての秘伝の書、ハローキティのポンポンパック目覚まし時計BOOKはまだ入荷していない。
そこで私がいま、発注しようか迷っているのが

近藤千尋プロデュース! SUN DEFENCE 晴雨兼用99.99%以上遮光日傘BOOK 涼しさアップのWHITE ver.

である。

名称に「BOOK」とついているが、実際には日傘がメインだ。宝島社がよくやる手法。

私は近藤千尋が誰なのか知らない。知らないが、なんかその筋のカリスマっぽい気がする。
我々読書家にとってカリスマ書店員がカリスマであるのと同様に、この近藤千尋という人だって誰かにとってはカリスマなのだろう。

そんないい加減なことでいいのか。おまえは、そんなよく知らない人の本を並べるために棚主になったのか、という内なる声がないでもない。

しかし、いろいろと試してみることこそが棚主としての本懐ではないだろうか。

フォークリフトに撥ねられたタケさんからは「慣れないことはするもんじゃない」という教訓を得たが、慣れないことをしなきゃ前に進めないことだってある。

近藤千尋プロデュース! SUN DEFENCE 晴雨兼用99.99%以上遮光日傘BOOK 涼しさアップのWHITE ver.

で前に進めるかはわからないが、とりあえず発注してみることにした。

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