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なぜ日本馬は、凱旋門賞で勝てないのか②

日本馬の好走条件とは?


 凱旋門賞において近年、牝馬の成績が良いことは良く知られている。過去10年(2014~2023年)を振り返っても、2017、2018年と連覇したエネイブルを筆頭に、3着までに入った30頭の内、延べ10頭が牝馬となっている(今年を加えれば、12/33となる)。すでに多くの競馬関係者やファンが指摘しているように、ロンシャンの馬場をこなすには小柄な牝馬の方が有利なのだろうか。

 過去出走した日本馬の馬体重ごとの成績は、

 480kg以上の日本馬(0.0.0.18) ・平均着順:13.2着
 480kg未満の日本馬(0.4.1.7) ・平均着順:5.6着

 1999年 エルコンドルパサー(牡5):2着 (472㎏)
 2006年 ディープインパクト(牡4):3着(442㎏)※入線後失格
 2010年 ナカヤマフェスタ (牡4):2着(466㎏)
 2012年 オルフェーヴル  (牡4):2着(456㎏)
 2013年 オルフェーヴル  (牡5):2着(464㎏)
 2013年 キズナ      (牡3):4着 (478㎏)
 2014年 ハープスター   (牝3):6着 (476㎏)

 2023年 スルーセブンシーズ(牝5):4着 (446㎏)

 ※ブログ「今更ゲーム実況初めて底辺を脱出できるの?」ほか参照)

 と、明らかな差が出ている。ちなみに、シンエンペラーは480~490㎏。

 このデータだけを見れば、ロンシャンの重・不良馬場をこなすには、小柄な馬の方が有利と言えるのかもしれない。

 また、下記のムラマシ競馬noteさんが出している、日本の競馬場における「【データ検証】道悪になったら○○が良い、○○が悪いは本当なのか?(芝編)」の、「Q.小さい馬のほうがよい?(馬体重が軽い馬のほうがよい?)」を見ると、

 結論から言うと、境界線は480kgかもしれない。
 というのも、479kg以下はすべて良馬場が各馬体重帯の合計平均を下回り、稍重以上のどこかで上回っている。
 一方、480kg以上になると良馬場は各馬体重帯の合計平均を上回っている。
 やはり、馬体が小さいほうが道悪の好走率が高いと考えて問題なさそうだ

 との結論を出している。

 何と偶然にも、先に挙げた凱旋門賞での好走・凡走馬の馬体重に見事に一致している。

 もちろん、日本の競馬場の重・不良馬場とロンシャンを同じものと考えるのは、いささか早計かもしれない。しかし、牡馬牝馬に限らず、馬体重が好走条件の鍵を握っていると言えないこともなさそうだ。

 さて、ここからは他の好走条件について見ていきたい。
 まず初めに、ロンシャンの特徴的なコース形態について。
 JRAのホームページを引用すれば、

「凱旋門賞は芝2400メートルの外回りコースを使用して行われ、レースはスタンドから見て左奥にある風車の付近に置かれたゲートから発走する。スタート直後の約400メートルは平坦で、向正面では最大斜度2.4パーセントの上り坂が続く。3コーナーを過ぎてからは下りに転じ、1000メートルから1600メートル付近までは600メートル進む間に10メートルを下がるコース設計になっている。その後、競馬場の名物であるフォルスストレート(偽りの直線)と呼ばれる直線を250メートルほど走り、最後の攻防が繰り広げられる実際の直線は平坦でその距離は東京競馬場とほぼ同じ533メートル。10メートルの高低差はJRAでもっとも勾配のある中山競馬場(5.3メートル)のほぼ倍に相当する」とある。(※太字筆者)

 引用文の中の「中山競馬場」に注目すると、好走馬の面白い共通点が見えてくる。

 例えば、昨年のスルーセブンシーズ。
 中山芝1800~2500mでの成績は、(4.1.2.1)。
 ナカヤマフェスタは、1800~2200mで、(1.1.0.1)。
 オルフェーヴルは、1600~2500mで、(2.1.0.0)。
 ディープインパクトは、2000~2500mで、(3.1.0.0)。
 ※エルコンドルパサーは、中山ダート1800mのみ。しかし、不良馬場で2着に9馬身差の圧勝を収めている。

 ちなみに、近年の出走馬の中でも、特に中山を得意としたタイトルホルダー(凱旋門賞出走時の馬体重は475㎏前後)は、1800~2500mで、(4.2.1.4)。菊花賞、天皇賞(春)を制すほどの無尽蔵のスタミナを持ち、凱旋門賞後の日経賞(中山芝2500m)では不良馬場をものともせず、先行逃げ切りで勝ちを収めた牡馬だが、凱旋門賞では残り300mで失速。11着に敗れている。
 ただ、上に挙げた好走馬が皆、後方から上りを使う差し馬なのに対し、タイトルホルダーは逃げ先行馬だった。

 また、馬場適正については、エルコンドルパサー、オルフェーヴルは、重・不良馬場で上り最速を使っての勝利経験がある。ナカヤマフェスタは好走歴こそないが、不良馬場で開催された日本ダービーで上り最速を記録している。スルーセブンシーズも、中山の重馬場で圧勝経験がある。

 そして、血統を見ると、エルコンドルパサーはサドラーズウェルズ、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル、スルーセブンシーズはステイゴールドの血を引く。

 ここまでを簡単にまとめると、日本の好走馬の共通点は、

 ①480㎏以下の馬体重。
 ②中山での好走歴。
 ③上りが使える後方脚質。
 ④重・不良での好走歴、または上がり。
 ⑤サドラーズウェルズ系、ステイゴールド系の血統。


 さらに、詳述はしなかったが、2001m以上の重賞での好走歴があると好ましい。

 と言うのも、少々話はずれるが、今年の凱旋門賞の予想の際、私が重視したのが、第一に近年の好走馬に共通している血統(サドラーズウェルズやダンチヒ)。第二が馬場適正だった。最後まで出走の可否に悩んでいたファンタスティックムーン陣営が、重馬場を嫌がっていたことを考えれば、馬場がいかに、その馬の好走条件を左右するかが分かる。そして最後に、距離適性。
 私は初め、2000m以下のG1を連勝し、重馬場適正もあったマルキーズドセヴィニエに印をつけていたのだが、凱旋門賞の過去のデータを見直していた時、直前になって距離適性の重要性に気が付き、マルキーズドセヴィニエからアヴァンチュールに印を変えた。
 実際、2400m以上で1着2回、2着2回、重馬場でも好走歴があったアヴァンチュールが2着。枠の不利もあったにしろ、マルキーズドセヴィニエが14着に沈んだことを思えば、中距離以上で走れるスタミナも間違いなく必須と言えそうだ。
 
 以上を分析すると、なぜシンエンペラーは好走できなかったのか、その要因が見えてくる。

 ①480㎏以下の馬体重→✕
 ②中山での好走歴→〇(1.1.0.0)
 ③上りが使える後方脚質→△
    (上り最速は、先行した「弥生ディープ記念」2着のみ)
 ④日本競馬場の重・不良での好走歴、または上がり→✕
 ⑤血統→◎
 (父シユーニ(ヌレイエフ)、母父ガリレオ(サドラーズウェルズ))
 ⑥日本の2001m以上の重賞での好走歴→△
 (「日本ダービー」3着のみ)

 一方、オルフェーヴルは、

 ①480㎏以下の馬体重→◎
 ②中山での好走歴→◎(2.1.0.0)
 ③上りが使える後方脚質→◎(21戦中10戦で上り最速を記録) 
 ④日本競馬場の重・不良での好走歴、または上がり→◎(2.0.0.0)
 ⑤血統→〇 (父ステイゴールド)
 ⑥日本の2001m以上の重賞での好走歴→◎(4.1.0.1)

 2021年、7着のクロノジェネシス(牝5)。

 ①480㎏以下の馬体重→〇
 ②中山での好走歴→〇(1.0.1.0)
 ③上りが使える後方脚質→△
 (上りは使えるが、どちらかと言えば先行馬) 
 ④日本競馬場の重・不良での好走歴、または上がり→〇(1.0.0.0)
 ※しかし、好走したのは平坦な京都競馬場の京都記念。
 ⑤血統→〇 (父バゴ)
 ⑥日本の2001m以上の重賞での好走歴→◎(4.1.2.1)

   2013年、4着のキズナ。

 ①480㎏以下の馬体重→△
 ②中山での好走歴→✕(0.0.0.1)
 ③上りが使える後方脚質→◎(14戦中8戦で上り最速) 
 ④日本競馬場の重・不良での好走歴、または上がり→△(0.1.0.0)
 ※しかし、重馬場のニエル賞で1着。
 ⑤血統→△(母父ストームキャット系)
 ⑥日本の2001m以上の重賞での好走歴→〇(2.0.1.2)

 さて、以上はあくまでも、好走する可能性の必要条件である。ただ、ここには肝心なファクターが含まれていない。それは、「運」の要素だ。
 まず、どのレベルの出走馬が出てくるのかによって、好走できるかどうかは変わってくる。トレヴ(2013、2014年連覇)やエネイブル級が出てくれば、太刀打ちできないかもしれない。さらに、天候と馬場。仮に6項目すべてをクリアした馬がいたとしても、昨年のような良馬場開催だった場合、好走できるかどうかは分からない。良馬場開催を想定し、イクイノックスの出走を目指したとしても、当日重以上の馬場となれば、イクイノックスが本来の力を発揮できるかは分からない。つまりは、必要条件を満たしたとしても、好走するかどうかは一か八かなのだ。

 さて、最後に一つの試みとして、3~5歳までの現役馬の中で、上記の6項目をクリアできる馬がいるかどうか探してみたい。

 ソールオリエンス。

 ①480㎏以下の馬体重→◎(460㎏前後) 
 ②中山での好走歴→◎(2.1.0.2)
 ③上りが使える後方脚質→〇(10戦中4戦で上り最速) 
 ④日本競馬場の重・不良での好走歴、または上がり→〇(1.1.0.0)
 ⑤血統→〇(母父にモティヴェーター(サドラーズウェルズ))
 ⑥日本の2001m以上の重賞での好走歴→〇(0.3.1.1)

 さて、どうだろう。なかなか悪くないのではないだろうか。
 今年、重馬場開催となった宝塚記念(ソールオリエンス2着)を制したブローザホーンも名前が挙がることがあるが、

 ①480㎏以下の馬体重→◎(430㎏前後) 
 ②中山での好走歴→〇(2.1.1.3)
 ③上りが使える後方脚質→〇(22戦中7戦で上り最速) 
 ④日本競馬場の重・不良での好走歴、または上がり→◎(2.0.0.0)
 ⑤血統→✕
 ⑥2001m以上の重賞での好走歴→◎(2.1.1.2)

 と、複数の項目をクリアしているのだが、本格化した後の好走が、京都に偏っていることが気になる(中山での勝利は2勝クラスしかない)。もしブローザホーンが有馬記念などで好走すれば、多少信頼度は上がるが、果たしてどうだろうか。

 素人ながら、2回にわたって考察してきたこの稿も、ここまでとなる。宝塚記念後、もしソールオリエンスが出走していたら、掲示板もあったのではないかと思ってしまうが、そう簡単なことではないだろう。
 また、ロンシャンでの適性を示してきたステイゴールドの系譜も、途絶えようとしている。一応、エポカドーロとオーソリティが、オルフェーヴルの後継種牡馬となっているが、エポカドーロは早熟、オーソリティは戦績は立派だが、脚質が先行馬だ。この2頭からステイゴールド、オルフェーヴルを彷彿とさせる馬が出てくることを期待したいが、それは叶わぬ夢かもしれない。
 そうなると、望みはやはり、サドラーズウェルズの血統になるのだろうか。

                               おわり

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