動機づけ面接① スピリット
「動機づけ面接 第3版 星和書店 ウィリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック」
行動変容の理論は何度か講義などで学んだことがあります。
自信度重要度モデル、健康信念モデル、5A、5R、ステージモデル、LEARNのアプローチなど、家庭医療の講義ではよく取り上げられます。理論は理解できるのですが、実臨床にそのまま応用してもうまくいかないことが多く、しっくりこないと感じていました。行動変容の理論を理解した上で、実際の患者さんとどのように関わり、会話をするのが効果的なのか、もっと実践的な知識を学びたいと常々思っていました。
「理論を理解しても実践するのは難しい」「理論と実践を橋渡しするような本はないのか」
そんな時に、この本が現れました。欧米の著者が書いているため、日本の文化にそのまま当てはめることはできませんが、外来での医療面接の内容を大きく変える力がある本だと思います。外来だけでなく、日常会話やすべての場面で応用できる内容だと感じました。
何度かに分けて、この本から学んだことをアウトプットしていきます。
変わる力は患者自身にある。医師はそれを引き出すだけ。
医師や看護師などの医療職は、患者の間違いを正し、正しい方向に導く必要があると考える場合が多いと思います。そのため、患者の話を聞くよりも、正しい知識の伝達や間違いの修正を優先しがちになってしまいます。しかし、このような姿勢では行動変容を実現することは難しいばかりか、逆効果であるとこの本には書かれています。
行動変容において大事な精神は以下の通りです。
変化を起こすのは医療者ではなく、患者自身である。
変化への動機づけは外から(医療者から)植え付けるものではなく、患者自身の内側から引き出されるものである。
行動変容は医療者が患者に対して行うものではなく、患者のために、患者と共に行うものである(パートナーシップ)。
つまり、変化を起こすのは患者自身であるため、患者が内側から行動を変化させられるように、医療者は患者の持つ力を引き出すという意識が重要だということです。
本書ではそれを行うために、重要な4つのスピリットが紹介されています。
引き出す
受容
パートナーシップ
思いやり
ここでは「引き出す」と「受容」について取り上げます。
引き出すこと
医療従事者は専門家として、欠陥モデルに基づいて議論を進めがちです。欠陥モデルとは、「患者には何か欠けるものがあり、医療者はそれを補わなければならない」という考え方です。医療者は矯正すべき欠点や欠陥を探し、それをいかにして治すかという論理で物事を考える癖がついてしまっています(もちろん、感染症の治療などにはこのアプローチが必要です)。そのため、面接時にも患者の欠点にフォーカスを当てがちです。つまり、患者の間違いを指摘しがちです。
動機づけ面接では、欠陥モデルに基づくアプローチがうまくいかないことが多いとされています。では、どうすればよいのでしょうか。
必要なもののほとんどはその人の内側にあり、医療者の仕事はそれを患者から「引き出す」ことです。患者の欠点ではなく、長所や強みにフォーカスを当て、患者が持っている変化への動機を引き出すことが重要だと言います。
今までこのようなコミュニケーションを行ってこなかった私にとって、これを実臨床に取り入れるには時間がかかるかもしれませんが、まずは間違いを指摘しないこと、相手の強みを探す癖をつけることを外来診療で意識していきたいと思います。
受容
上記の「引き出す」を実践するためには、相手を受容することがまず必要です。受容は共感、是認、自律性サポート、絶対的価値の4要素からなりますが、ここでは共感について取り上げます。
共感とは何でしょうか?似たような意味の言葉に同情や同一化があります。
同情:他人の気持ち、特に苦悩を、かわいそうだと思うこと。
同一化:「私も同じような経験をしたことがあるので、あなたの気持ちはよくわかります」と感じること。
共感は同情や同一化とは異なり、「患者の作り上げた内的な世界観を、あたかも医療者自身が経験したかのように感じること」です。
共感には相手の話をよく聞く技術と医療者自身の想像力が必要であり、高度なテクニックであると思いますが、行動変容に限らず家庭医としては必須のテクニックでしょう。(私自身は苦手ですが…)
欠陥モデルに基づくスタンスだと、共感は軽視され、医療者がずっと話している面接になりがちですが、動機づけ面接ではむしろ患者にたくさん話してもらい、医療者がそれに共感するところから始まるのかもしれません。
共感が上手にできるようになるにはどうすればよいでしょうか?(その点については本書には書かれていませんでした。)
まとめ
今回は、行動変容や動機づけ面接において重要と思われる精神論について取り上げました。自分自身のアウトプットのためということもあり、ややまとまりのない文章になってしまいましたが、ご容赦ください。(元々、文章を書くのが苦手です。)
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