お客さんは友達じゃない
外国人のお客さんを自宅に招き入れ、自宅のキッチンで4時間ときには5時間一緒に料理し、作った料理を食べ(私は基本食べない)、お互いのことをいろいろ話しているといつも、そのお客さんと友だちになったような錯覚に落ち入っていた。
いつか、私はそのお客さんの住んでいる街を訪ねる、そして自宅に招かれ今度はお客さんから料理を習う…そんなことを妄想した時もあったが今ではそんな日はまず来ないことはわかっている。
お客さんは、友達じゃない、決して。特に、料理クラスに来る観光客のお客さんは、基本「一期一会」なのだ。
でも、東京に住んでいるお客さん(ほとんど、横田基地の人)は、1回だけでなく何回も来る場合がある。違う家族を連れてきて2回も3回も同じクラスを受けてくれる人もいる。また。コロナの時にオンラインの料理クラスに参加していた人が
対面クラスに来てくれる場合もある。
1回だけでなく何回も会うと尚更友だちになったような錯覚は強くなるが、それは本当に錯覚に過ぎないのだ、悲しいことに。
2021年11月、ハネムーンで東京に来るというシカゴのカップルから2022年4月のラーメンクラスの申し込みがあった。一旦落ち着いたコロナがまたぶり返し旅行はキャンセルに。その年の1月からオンラインで日本語を教え始めていた私は、彼らに翌年の23年4月に旅行に来れるようになるまでに日本語を勉強しないかと提案した。
毎週月曜日の朝(シカゴは日曜日の夜)、休みが続くことはあったが1年間日本語を教えた。名前は、マイケルとサラ。マイケルは弁護士でサラはファイナンシャルプランナーという美男美女のカップル。
アメリカ人にとって、平仮名を覚えることは最初の難関であり最初はローマ字を使って、少しずつ平仮名を覚えるようにした。そしてごくごく簡単な会話ができるようになった。
2023年4月になり、彼らがついに東京に来ることになった。
イギリス人のツアーガイドの友達が主催する代々木公園での花見イベントに一緒に行った後、お寿司食べ放題に連れていった。また違う日に、私の住む街を案内した上に自宅でラーメンクラスをした。1年間オンラインで、そして丸2日間も一緒に過ごしたので、すっかり友だちになったような気になってしまった。
「日本語を勉強したから少しでも日本語が通じて嬉しいわ〜」「細く長くでも日本語クラスを続けていきたいな」と2人とも口を揃えて言っていたのに、シカゴに帰ってから1回だけ日本語クラスをしたが、その後突然音信不通になってもう1年以上経ってしまった…
そういうお客さんが、実はサラとマイケルだけじゃなくて何人もいるのだった。
どんな仕事でもそうだが、お客さんといくらいい関係を築いていたとしても(自分の思い込みの場合も多々ある)、自動的に永久にお客さんと契約することはできない。自分自身のことを考えてみれば、今まで何度続けてきたことを突然辞めたかわからない。それに、日本人の友達(だと思っていた人)で突然音信不通になる人もいる。
今、日本語クラスのお客さん(生徒さん)はアメリカ人、イギリス人、オーストラリア人、スペイン人、ドイツ人と6人いて、長い人で3年、全員1年以上続けている熱心な人ばかりだ。この6人に日本語を教えることは、私の仕事の1番のやり甲斐になっているといっていい。でも、もしかしたら誰かいつか辞めるかもしれないということは常に頭の片隅に置くようにしている。じゃないともしその覚悟なく突然その時が来たら悲しすぎるから。