ゼロ辛の民にも人権を
同居人に連れられ、汁なし担々麺の店「キング軒」に行った。
同居人は生粋の辛いもの好きであり、たびたび旨辛押しの店に連れて行かれる。
一方で私は、辛いものを全く受け付けない。辛さへの耐性がない。
どのくらい辛さに弱いのかというと、CoCo壱の1辛を涙目になってヒイヒイ言いながら、ギリギリ完食できるレベルだ。2辛以上は未知の領域だし、一生食べることはないだろう。辛いカレーなどこの世からなくなればいいと願っている。
そんな私が辛いものを食べに行った時は、迷わずゼロ辛を頼む。辛さなど1mmもいらない。たまにゼロ辛がない店があるが、その時は腹を括って1辛を頼み、水をガボガボ飲みながら必死で食べる。
「キング軒」はどうかというと、よかった、ゼロ辛があった。
これで美味しく食べられる!と安心して食券機の「ゼロ辛」ボタンを押そうとすると、こんな説明書きが目に入った。
「ゼロ辛はお子様でも安心して食べられます!」
お、お子様…だと…?
これを頼む私はお子様だというのか…?
これを頼んでしまったら最後、このアルバイトの女の子に裏でめちゃくちゃ笑われるのではないだろうか。
「あいつあのでかい図体のくせに「ゼロ辛」頼んでましたよ!」
「お子様のご来店でい(笑)!!ヒャー!!」
という感じで厨房でひと笑い起こるのではないだろうか。
私のしょうもないプライドがボタンを押す手を阻む。
結局私は泣く泣く「1辛」のボタンを押し、食券を女の子に手渡した。
成人男性が世界一どうでもいい見栄を張った瞬間である。
しばらくして「1辛」の担々麺が運ばれてきた。
1辛でも美味しいのは美味しい。でも辛い!!
一口食べるたびに水を飲み、舌を冷ましながら完食を目指す。
周りからは「4辛」に挑戦している男だと思われているだろう。すみません、1辛なんです。でも私にとっては命懸けなんです。
なんとか完食が見えて来た頃、隣で3辛を啜っていた同居人が「やっぱり4辛にすればよかったかなー」と呟きながら、鷹の爪をドバドバかけていた。化け物かよ。
…こんな感じで辛さに全く耐性がない私なので、世の中の「激辛ブーム」が一切理解できない。前述したCoCo壱の10辛システムもそうだ。辛いカレーを食べて何が嬉しいのか。何が得られるというのか。カレーは甘いほうがいいんだよ。
でも辛さを楽しめる人が羨ましくもある。
私が人生において全く楽しめていない「辛味」を楽しめるようになれれば、どれだけ食事の幅が広がるだろうか。
私も3辛にするか4辛にするかで迷ってみたい。3辛を食べてみて「全然大したことなかったな」とか言ってみたい。辛味を「引くもの」ではなく「足すもの」だと認識してみたい。
大人になれば辛いものも食べられるようになると思っていたけど、そんなことなかったな。みんなどのタイミングで辛さを克服してるんだ?そういう舌に関する授業があった?私だけ舌の義務教育を受けてないかも。
※調べたらCoCo壱の辛さMAXは10辛ではなく15辛みたいですね。最近追加されたらしい。どうでもいいよ。好きにやってくれ、好きに!!!