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果樹について たわわな実に憧れて
小学生の頃、通学路沿いのどのお宅に何の果物の樹があるのか覚えていた。
あの角を曲がったら桃の樹のある緑の屋根のおうちがあって、坂を登りきったら枇杷の樹のあるおうちがある。
私の家は社宅住まいだったから庭はなかった。
だから大きな庭に憧れていた。ましてや自分のうちに果物の樹があるなんて。羨ましかった。
大人になって家を持っても、平日朝から晩まで外で働く身では、庭のお世話までできない。この家では庭はできるだけ狭くていいと決めて購入した。
自分の樹を持つのは、少し先の楽しみにとってある。
子供が生まれて歩き出した頃から、毎年春にはいちご狩り、夏にはブルーベリー狩り、秋はぶどう狩り、北海道に旅行した際はさくらんぼ狩りにすもも狩りといそいそと果物狩りに出かける。
量は大して沢山は食べられないのだ。スーパーで買った方が格段にお安く、まったく元が取れない。
でもそんなことはどうでも良く、かんかんと降り注ぐ日差しのもと、なまぬるい果実をつまみ、空を見上げるのは、子供の頃抱いていた憧れをヨシヨシと優しく撫でているような豊かな気持ちになる。
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