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DM_2型糖尿病患者ではやはり血圧は120未満がいい?_BPROAD試験

Bi Y, Li M, Liu Y, Li T, Lu J, Duan P, et al. Intensive Blood-Pressure Control in Patients with Type 2 Diabetes. New England Journal of Medicine [Internet]. [cited 2024 Nov 19];0(0). Available from: https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2412006


背景

  • 血圧降下は心血管疾患のリスク低下に関して明白な利益があるため、現在の臨床ガイドラインでは2型糖尿病患者の血圧降下を推奨しているが、この集団における効果的な収縮期血圧降下目標は不明である。

    • Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes(ACCORD)試験:収縮期血圧<120のほうが、<140より主要心血管イベントが少ない。

    • Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT):非糖尿病患者を対象に,ACCORD試験と同様の収縮期血圧の低下目標が検証された。 集中治療群で有意に低かった。

    • 最近の臨床試験におけるサブグループ解析では,糖尿病の状態にかかわらず,収縮期血圧の目標値をより厳格に設定することが主要心血管病イベントの予防に一貫して有効であることが示唆されている、

    • しかし,糖尿病の有無にかかわらず,収縮期血圧を集中的に下げることの有効性の欠如も報告されている。

  • 血圧管理により心血管疾患のリスクを低減できることは知られているが、具体的な目標値についての証拠は限定的である。


方法:

  • 試験デザイン:中国国内145の臨床施設における多施設ランダム化比較試験。

  • 対象:下記を満たす

    1. 年齢50歳以上の2型糖尿病患者

    2. 収縮期血圧が高い(薬物治療中の患者:130–180 mmHg、未治療:140 mmHg以上)。

    3. 心血管疾患リスク

      1. 3ヶ月以上前の心血管イベントの既往(脳卒中、心筋梗塞、頸動脈狭窄症、PAD…)

      2. 3年以内の潜在的心血管疾患(微量アルブミン尿、冠動脈・頸動脈・下肢動脈の50%以上の狭窄、ABI≦0.9、左室肥大)

      3. 2つ以上の心血管リスク因子(current smoke、BMI≧28または腹囲≧90(男性)または≧85cm(女性)、脂質異常症、eGFR30−59)

  • 除外基準:

    • 1型糖尿病、二次性高血圧

    • 1分間立位での収縮期血圧<110mmHg

    • 過去3ヶ月以内の心血管イベント(不安定狭心症を含む)

    • 過去6ヶ月以内の症候性心不全または左室駆出率<35%

    • 肝障害(AST, ALT>正常上限の2倍、活動性肝疾患)

    • 腎機能障害(透析中、またはeGFR<30、血清Cre>2.0、多発性嚢胞腎または糸球体腎炎)

    • プロトコル遵守の困難が予測される人(認知症、アルコール依存、薬物乱用…)

    • 妊娠中、妊娠予定あり

    • 予後5年以内

  • 介入

    • 集中的治療群:収縮期血圧を120 mmHg未満にすることを目標。

    • 標準治療群:収縮期血圧を140 mmHg未満にすることを目標。

  • 期間:最大5年間。

  • 評価項目

    • 主要評価項目:非致死性脳卒中、非致死性心筋梗塞、心不全治療または入院、心血管死の複合評価。

    • 副次的評価項目:個々の心血管イベント、腎疾患進行、全死亡率など。


結果

患者情報

  • 総患者数:12,821人(集中的治療群6414人、標準治療群6407人)。

  • 平均年齢:63.8歳、女性割合:45.3%。

血圧管理

  • 1年後の平均収縮期血圧:

    • 集中的治療群:121.6 mmHg(※約60%が目標値を達成)

    • 標準治療群:133.2 mmHg

心血管イベント

  • 主要評価項目の発生率:

    • 集中的治療群:1.65件/100人年 vs 標準治療群:2.09件/100人年。ハザード比:0.79(95%信頼区間 0.69–0.90、P<0.001)。

有害事象

  • 重篤な有害事象の発生率は両群で同程度(約36%)。

  • 集中的治療群での頻度が高い副作用:

    • 症候性低血圧:0.1%(標準治療群:<0.1%)。

    • 高カリウム血症:2.8%(標準治療群:2.0%)。



考察

  • 有効性

    • 収縮期血圧120 mmHg未満への集中的治療は、心血管イベントリスクを有意に低下させる。特に脳卒中リスクの低減が顕著。

  • 安全性

    • 有害事象は増加するが、適切なモニタリングにより管理可能と考えられる。

他試験との比較

  • ACCORD試験(2型糖尿病患者)では心血管イベントの有意な低下が見られなかったが、本試験は統計的に十分なサンプルサイズを確保。

  • SPRINT試験(非糖尿病患者)との結果の整合性を示唆。

臨床への影響

  • 現行ガイドラインが推奨する血圧目標値(130 mmHg未満)よりも低い目標値(120 mmHg未満)を支持する新たなエビデンスといえる。

  • 集中的血圧管理を行う際には、低血圧や高カリウム血症への注意が必要。

限界

  • 被験者と治療医が治療群を認識していたことによるバイアスの可能性。

  • 中国以外の地域や異なる集団への一般化にはさらなる検証が必要。

結論

  • 2型糖尿病患者において、収縮期血圧120 mmHg未満を目指す集中的治療は、140 mmHg未満を目指す標準治療と比較して、心血管イベントリスクを有意に低下させることが示された。



読後感想

  • 2型糖尿病の人で降圧目標をsBP<140から120mmHgにすると、100人年中2→1.5人にイベントを減らすことができる。起立性調節障害、電解質異常のイベントは軽微。

  • いつも降圧薬は「まあこのくらいでいいでしょう」と緩めにすることが多い。低血圧が怖くてあまり強くは勧めていなかった。

  • 平均年齢が65歳と低年齢なので、私の普段診ている人には適応外の人が多い。2型糖尿病で若い人には頑張ってもよさそうかな。自律神経障害を起こしている人は難しいだろうけど。


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