見出し画像

Career_地域枠学生〜卒業生がキャリアについて思うこと:A県のアンケート横断研究

Suematsu M, Inoue R, Takahashi N, Miyazaki K, Okazaki K, Miyata Y, et al. Investigating the perceptions of career development as the Japanese regional quota medical students and graduates in A prefecture. Journal of General and Family Medicine. 2024;25(3):166–9.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jgf2.689

背景

  • 日本では、都市と地方の医師分布の不均衡が依然として存在している。2008年から「地域枠」制度が導入され、医師不足地域での一定期間の勤務が義務付けられている。

    • A県では、奨学金支給と9年間の勤務義務があり、義務履行ができない場合は奨学金の返済が求められる。

  • 現在、地域枠にはいくつかの問題が提起されている。

    1. 地域の人員不足によるオーバーワーク(過度な当直など)

    2. 地域枠システムからの離脱

    3. 地域枠学生の欠員率の増加

  • 義務年限前の地域枠離脱の実態に関しては、現在全国調査中である※

  • 離脱者の多くは希望進路とのミスマッチを挙げており、キャリア支援の必要性も提起された。現在、各都道府県はキャリア形成プログラムを策定することになっている。しかし地域枠の学生や卒業生がこの制度をどのように受け止めているかは不明である。

  • 本研究は、地域枠の学生と卒業生のキャリア開発に関する認識を調査することを目的とした。


方法:アンケート調査による横断研究

  • 対象:A県の84名の医学生と41名の卒業生が対象。

  • アンケート項目:「全国医学生の医療地域に対する意識と進路選択に関する調査」(前野ら、日本医科大学)を参考に、「1」は「全くそう思わない」、「7」は「強くそう思う」 」を示す7段階評価で22項目からなる。


結果

  • 参加者の背景

    • 全参加者、医学生、卒業生の回答率は、それぞれ60%(75/125人)、67.8%(57/84人)、43.9%(18/41人)であった。

    • 性別は、男性40名、女性32名、無記名3名であった。

    • 年齢は、20歳未満が17名、20歳以上24歳未満が38名、25歳以上29歳未満が17名、30歳以上34歳未満が1名、35歳以上39歳未満が1名、年齢未記入が1名であった。

    • 回答した18人の卒業生のうち、12人は初期研修医、その他は後期研修医だった。

  • 得点の比較

    • 地域枠学生は「奨学金が利点である」などの項目で高得点を示し、「地域医療への貢献意識」が強い傾向にあった。

    • 卒業生は、生活上の負担(結婚や子育て、留学や大学院進学との両立)が増加していると感じており、義務履行の負担が学生よりも重いと感じていた。

  • 16項目に絞った質問票の信頼性は高く、内的整合性(Cronbachのα係数)は0.72であった。

表2.マン・ホイットニーU検定による地域枠の学生と卒業生の2群間比較の結果

考察

  • 地域枠学生は、奨学金や同窓生との繋がりを利点とし、地域医療の解決策の一部と認識しているが、卒業生は生活との両立やキャリアの遅れに対する不安が強い。

  • 地域枠制度の運営者は、卒業生と同窓生やメンターとの交流の機会を提供し、キャリア形成支援を強化するべきである。

限界

  • 調査対象者が予想より少なく、特に卒業生の連絡先が不明だったことが低い回答率に影響したと考えられる。

結論

  • 地域枠医学生と卒業生の間で、地域枠に対するキャリア形成の意識が異なることが示唆された。


読後感想

  • 地域枠学生〜卒業生が何を考えているかのアンケート調査、1県の限られたサンプルだが参考になる。学生→卒業生で「地域医療への貢献」が低下しているのが少し悲しいが現実だ。

  • インタビューはわかっている項目が多く、偶発性が低い。もう少し内面に迫って話を聞きたい。例えばインタビューとかして質的研究に落とし込みたい。

  • 学生時代は「地域枠ってなに?」と、少し遠い存在だった。総合診療医・家庭医療研修を受け、地域で働くようになって解像度が上がってきた。

  • しかし私の所属する総合診療プログラムは、地域枠のみなさんとあまり交流する機会がない。「近くて遠い隣人」のイメージだ。まだ解像度が足りない。

  • 限られた交流のなかでは、多くの不満や不安を抱えながら、それでも頑張っている姿を垣間見ている。尊敬するしかない。最近聞いた言葉だと・・・

    • 「仕事も忙しいし時間も機会もないから、ここで学び成長できるか不安だ。」

    • 「内科に従事する人が少なくなり、余計にしわ寄せが来ている。不公平だ。」

    • 「眼の前のニーズにできる限り応えることで、できることは増えた。ただ眼の前でできることを頑張っているだけで、これでいいのか?と思うことも多い。」

    • 「サポートも薄く、若手医師は『使い捨ての駒』のように感じる」(これが一番効いた…)

  • 今の仕事は、少しだけ地域枠学生〜卒業生と関わっている。過去は総合診療の考え方が地域医療に役立つと素直に思っていた。しかし、地域枠の制度の複雑さや地域の状況を知るに連れ、地域で仕事することの難しさをより感じるようになった。

  • 家庭医療・総合診療は理論的で、地域医療・地域枠・自治医科大学の皆さんはより実践的なのかな、と最近思うようになった。特に私は実践が弱い、と感じている。

  • 彼ら彼女らから学ぶことは非常に多い。これからも交流機会を作りながら、お互いの良い場所を見つけられるよう、継続的に関わっていきたい。


参考文献

高屋敷明由美, タカヤシキアユミ. 「地域枠の医学生が有する将来へのビジョンと在学中に遭遇する困難」 の全国調査. 文部科学研究費補助金研究成果報告書 基盤研究 (C). 2010;2012.
https://core.ac.uk/download/pdf/56655506.pdf

高屋敷明由美, タカヤシキアユミ. 地域枠医学生の医師不足地域での従事意思についての全国調査.
https://core.ac.uk/download/pdf/250582366.pdf

飯田さと子. 患者・住民の専門医志向に関するへき地総合医の経験と認識: 自治医科大学卒業医師の手記の分析. 保健医療社会学論集. 2013 Jul 31;24(1):41-50.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshms/24/1/24_KJ00009470125/_article/-char/ja/

へき地・離島診療所における本学卒業生の活動と促進因子および阻害因子. 自治医科大学紀要. 2006;29: 79–91.

Nishikawa K, Ohta R, Sano C. The perception of rural medical students regarding the future of general medicine: a thematic analysis. InHealthcare 2021 Sep 24 (Vol. 9, No. 10, p. 1256). MDPI.
https://www.mdpi.com/2227-9032/9/10/1256


いいなと思ったら応援しよう!