読書記録:コンパッション都市 公衆衛生と終末期ケアの融合 第四章 コンパッション都市の政策
今回は「コンパッション都市」を実現するための具体的な政策への提言が行われています。「コンパッション都市ってなに?」という方は前の記事を参照下さい。
政策ビジョン1:コンパッションを倫理的な要請と認める地域の健康政策を有する
運用政策1a:健康とコンパッションを結びつける教育的な取り組みを促進し支援する
運営政策1b:職場、学校と高齢者ケア施設におけるコンパッションを促進し支援する
政策ビジョン2:高齢者、生命を脅かす病気とともに生きる人びとおよび喪失とともに生きる人びとそれぞれに特有なニーズを満たす
運用政策2a:高齢者、生命を脅かす病気とともに生きる人びと、喪失とともに生きる人びとそれぞれに特有なニーズについてのコミュニティの理解を促進し支援する
運用政策2b:ポジティブ・エイジング、慢性疾患のポジティブな面、喪失のポジティブな面を支援する
運用政策2c:高齢者、生命を脅かす病気とともに生きる人びと、喪失とともに生きる人びとの存在と経験についてのメディアの認識を促進し支援する
政策ビジョン3:社会的および文化的な際に対して強くコミットする
運用政策3a:人種差別に反対する法律と包摂的な政策を促進し支援する―階級、ジェンダー、人種、性的指向に基づく宗教的差別を抑止する
運用政策3b:公共教育と学校カリキュラムにおいて社会的・文化的差異を促進し支援する
運用政策3c:異なるグループで加齢、深刻な病気・喪失の社会的・文化的影響を認識する実践を促進し支援する
運用政策3d:実施、政策または計画に関するいかなる委員会も、技能・専門知識および社会的・文化的多様性の組み合わせで選ばれたメンバーから構成されなければならない
政策ビジョン4:グリーフ・緩和ケアサービスを地方自治体の政策と計画に含める
運用政策4a:実施、政策または計画に関するいかなる委員会も、地域のホスピス/緩和および死別(突然の死)ケアチームのメンバーを含むべきである
運用政策4b:実施、政策または計画に関するいかなる委員会も、加齢、生命を脅かす病気や喪失とともに生きると行った直接的な経験を個人的に持っているメンバーを含むべきである
運用政策4c:地域コミュニティにおける喪失とグリーフの問題に取り組むための、地方自治体の政策を立案する
政策ビジョン5:多種多様の支援的な経験、相互作用、およびコミュニケーションへのアクセスを住民に提供する
運用政策5a:死と喪失の経験の比較と対比を行うメディアによる試みを、視聴者と読者のために促進し支援する
運用政策5b:人びとが死と喪失に直面しても好みのライフスタイルを維持することを支える自発的な社会サービスを促進し支援する
政策ビジョン6:先住民族との和解および他の重要なコミュニティの喪失についての記憶を促進し記念する
運用政策6a:先住民の和解に向けた国・州政府と地方自治体の取り組みを促進し支援する
運用政策6b:かつての紛争のすべての陣営のメンバーと、かつての戦争の犠牲者と兵士のメンバーを含む戦没者追悼記念日と記念式典への包摂的アプローチを促進し支援する
運用政策6c:平時における死と喪失を追悼する記念日を設ける
政策ビジョン7:グリーフケアと緩和ケアのサービスに容易にアクセスできるようにする
運用政策7a:喪失のケアと緩和ケアのための単一の電話照会サービスを促進し支援する
運用政策7b:学校と職場へのアクセスを促すことにより、地域のグリーフケアと緩和ケアサービスを促進し支援する
運用政策7c:これらのサービスの本質についての公共教育と啓発活動を促進し支援する
運用政策7d:これらのサービスからのコミュニティの取り組みを促進し支援する
政策ビジョン8:農村や遠隔地の人びと、先住民族とホームレスといった、経済的に不利な立場にある人たちを受け入れるための認識と計画をもつ
運用政策8a:これらのコミュニティにおける健康と病気のパターンにおいて、死と喪失が果たす役割について研究に基づいて理解する
運用政策8b:これらのコミュニティの死と喪失の問題に取り組む計画をもつ
運用政策8c:農村と遠隔地の人びと、先住民族とホームレスへのグリーフサービスと緩和ケアサービスを促進し支援する
運用政策8d:これらの理解と計画の策定とデザインに、学校、警察署、協会、職場および企業を巻き込む
政策ビジョン9:コミュニティのスピリチュアルな伝統と物語の語り手を保護し促進する
運用政策9a:超教派、多信仰的な取り組みを含めて、包摂的な宗教政策を促進し支援するとともに、部族的または旧式の手法の布教活動を避ける
運用政策9b:宗教およびスピリチュアルな伝統の古いものと新しいもの両方を受け入れる包摂的な文脈において「精霊の祝祭(年1回の儀式的なやつ)」を促進し支援する
運用政策9c:生命を脅かす病気や喪失とともに生きる人びとを慰めるコミュニティの役割において、多種的な宗教のチャプレン職、パストラルケア、およびヒューマニズムに基づく対話の役割を促進し支援する
運用政策9d:健康的でコンパッションに導かれたライフスタイルの開発と支援におけるスピリチュアルな信念および意味の価値と重要性を促進し支援する
読後感想
まずは教育や実践を学校や職場などで広げ、その上で地域にも広げ、さらに辺縁のより恵まれないところも重点的に…と非常にロジカル。
著者のバックグラウンド、この本が翻訳本であることからも、日本にそぐわないところも当然ある。しかし学ぶことも多い。例えば、2b.死や喪失のポジティブな面、そこから生み出される面などには意識していなかった。特に音楽・芸術・文学などの文化的活動との親和性は高いだろう。
ビジョン9は政策に宗教を組み込むお話があり、政教分離を当たり前と思っている自分にとっては目からウロコだった。しかし過去の歴史を考えてみると政策と宗教は一定に結びついている歴史があったのも事実。また「理性や理論」を優先してきたルネサンス以降の考えが、現状の「死」から遠ざけられた都市を生み出していると考えると、宗教的な考えを政策に取り入れることは有用なのかもしれない。
当然宗教の持つ誘惑・危険性についても触れられていた。宗教そのものではなく、宗教の考え、つまり宗教の扱っていた「生や死・喪失」などを政策にどう組み入れ、コンパッションな社会に近づけるか…ということなのだろう。
日本の哲学、死生観においてはどうなるのだろうか?
「地域包括ケア」にも僅かながらにこれらの概念は入っている気がする(『ここで生き、ここで死ねる』コミュニティの創生、と私は理解している)。しかし僅かなのだろう。
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