見出し画像

Dementia_認知症高齢者に赤ちゃんのように話しかけると、ケアの拒否が増えるかも知れない

SHAW, Clarissa A., et al. Elderspeak communication and pain severity as modifiable factors to rejection of care in hospital dementia care. Journal of the American Geriatrics Society, 2022, 70.8: 2258-2268.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17910

はてなブログはこちら

Point

入院中の認知症患者は、ケアの拒否Resistance of Care(RoC)を半数近くで示す。引き離す、泣く、物をつかむなどが最も多くみられた。
看護スタッフによるエルダースピーク・コミュニケーションの頻度が高いほど、RoCはより起こりやすく、より深刻であった。
・ケアの拒否は、患者がより強い痛みを感じているほど起こりやすく、また重症であった。


背景

ケアの拒否は、認知症患者が介護者の努力に抵抗・反対するときに起こる。病院での認知症ケアを改善するには、ケアの拒否につながる要因、特に修正可能な要因を特定することが必要になる。

エルダースピークコミュニケーションは、認知症のある高齢者に赤ちゃんのように話しかけるコミュニケーションのことである。
不適切に幼稚な語彙の選択、、選択肢を与えているように見えても選択肢を制限する質問(例:もう朝食の準備はできているよね)などの複雑なパターン、甲高い歌声のような声やイントネーションがある。このようなコミュニケーションパターンは高齢者に特有であるわけではないが、高齢者はますます無能で依存的になっているという年齢差別的な思い込みにより、このような人々に対してより頻繁に行われている。エルダースピーク・コミュニケーションは、介護施設における認知症患者のケアの拒否先行要因として確立されている。

本研究の目的は、看護スタッフによるエルダースピークコミュニケーションが入院中の認知症患者のケアの拒否に及ぼす影響を明らかにすることにより、これらの結果を急性期医療環境に拡大することである。



方法

2019年8月から2020年3月にかけて、大学病院単施設で看護職員・認知症患者を募集した。看護師は神経内科、家庭医療科、内科の病棟で直接ケアを提供した場合に対象とした。認知症患者は、研究に参加した病棟に入院し、認知症の診断があり、入院後ケアの拒否の報告があり、除外すべき特徴がない場合に組み入れられた。認知症患者は認知症以外の神経認知or精神医学的診断がある場合、英語が堪能でない場合、Functional Assessment Staging (FAST)分類で認知症の重症度が軽度以下と判定された場合は除外された。


看護職員と認知症患者とのケア面談を音声記録し、逐語的に書き起こし、年長者の話し言葉の意味的、語用論的、韻律的特徴をコード化した。


ケアの拒否の行動は、Resistiveness to Cares尺度(RTC-DAT)の13項目を用いてスコアリングされた:

  • 手足を内転させる

  • 口をつぐむ

  • 泣く

  • 物をつかむ

  • 人をつかむ

  • 殴る/蹴る

  • 引き離す

  • 突き飛ばす

  • ノーと言う

  • 叫ぶ/叫ぶ

  • 脅す

  • そっぽを向く。

(1=軽度、2=中等度、3=極端)。ベイズ型反復測定ハードルモデルを用いて、エルダースピークとケアの拒否の有無および重症度との関連を評価した。


そのほか、せん妄の重症度はConfusion Assessment Method-Severity short form(CAM-S)で0~7のスコアで表し、痛みの重症度はPAINAD(Pain Assessment in Advanced Dementia Scale)で測定した。PAINADでは、5つのカテゴリー(呼吸、発声、表情、身振り、慰めやすさ)を観察に基づいて痛みの重症度を評価し、その合計を0~10で評価する。CAM-SとPAINADは筆頭著者が観察ごとに記入した。


結果

患者

最終的なサンプルは、看護スタッフ53名と認知症患者16名で、88件のケアを受けた。看護スタッフのサンプルは、スタッフナースと看護助手が同程度に分かれており、大半が女性、白人、ヒスパニックやラテン系ではなかった。看護スタッフは概して若く(M=29.7歳、SD=10.9)、医療経験は5年未満がほとんどであった(62.3%)

73人の認知症患者のうち、ケアの拒否を示さなかった(58.3%)、軽度認知症未満であった(25.0%)、英語を流暢に話せなかった(8.3%)、除外診断があった(8.3%)という理由で半数弱(n=36)が除外された。


対象となった認知症の半数以上(n=21)は、退院前に法定代理人と連絡が取れなかった(57.1%)、研究参加に興味がなかった(38.1%)、同意前に死亡した(4.8%)などの理由で登録しなかった。

登録/非登録の認知症患者間に、性別、人種、民族、主な認知症診断、年齢における差は確認されなかった。


ケアの拒否

ケアにおける拒絶反応(RoC)の有無と重症度:入院中認知症患者のほぼ半数(48.9%)でケアの拒否あり


 ケアの拒否の有無と重症度

エルダースピークが10%減少すると、RoCは77%減少、重症度は16%減少した。 痛みの重症度が1単位減少すると、RoCは73%減少し、重症度は28%減少した。
エルダースピークと痛みのレベルが高いほど、ケアの拒否の重症度が高くなる


議論

疼痛レベルが低い場合でもエルダースピークはケアの拒否を誘発する可能性がある。その重症度は、エルダースピークの使用量に比例する。

疼痛とエルダースピークは、入院中の認知症患者におけるケアの拒否の修正可能な要因である。

エルダースピークは年齢差別的な固定観念から生まれるため、パーソン・センタード・ケアの信条に真っ向から反し、相互作用を非人格化してしまう。病院におけるパーソン・センタード・ケアの理念は、認知症患者が適切な疼痛評価と適切な コミュニケーションを受けられるようにするものである。例えば、入院中の認知症患者の疼痛ケアは、患者要因(例:自己申告が困難、早急な対応が必要な急性の医療ニーズ)、看護要因(例:認知症ケアや疼痛管理に関する知識不足、競合する要求)、環境要因(例:人員不足、刺激の過不足)により、多くの課題に直面している。


エルダースピークは非人間中心的アプローチであるだけでなく、ケアの拒否につながる可能性があることが示された。入院中の認知症患者にパーソンセンタード・コミュニケーションを提供するためには、人格を認識・承認し、嗜好を交渉し、自立を促しながらニーズを促進するアファメーション・コミュニケーションなどの代替アプローチが不可欠である。
また病院の看護スタッフによるエルダースピークを減らすためのコミュニケーショントレーニングの必要性を示している。現在、ナーシングホーム向けの介入として、看護スタッフのエルダースピーク、認知症患者のケアの拒否、施設全体の抗精神病薬投与を減少させるチェンジングトーク(CHAT)がある。看護スタッフにおけるエルダースピークの減少が、入院中の認知症患者におけるRoCの減少につながるかどうかを調べる臨床試験が計画されている。


限界

本研究は大学病院の認知症患者と看護スタッフからなる比較的小規模な便宜的サンプルを用いたが、両者の特徴は、全米の推定値とほぼ同じ傾向であった。今後の研究では、より多様な人々が参加し、それぞれの文化背景におけるエルダースピークの影響を調査すべきである。


読後感想

  • ベッド上安静でおむつを付けている認知症患者が「トイレに行かせて下さい」と訴える場面にあったが、スタッフが「そこでしても大丈夫ですよ〜!」という言葉に違和感を持ち、調べてみた。

  • しかし「エルダースピーク」の範囲が思った以上に広い。大げさでも端的すぎてもいけない。フツウの対応が大事なのだろうが、意識しないと難しい。

  • 高齢者はすべからく人生の先輩。リスペクトをもって接しよう」という言葉を改めて噛みしめる(儒教的・封建的と言われるかもしれないが、これが私の中ではしっくり来る)


いいなと思ったら応援しよう!