【シリーズ第39回:36歳でアメリカへ移住した女の話】
このストーリーは、
「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」
と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
前回の話はこちら↓
「やりたい!」
と思うと、私はいきなり走り出す。
危険やトラブルに巻き込まれそうになるけれど、運良く回避している。
おかげで慎重にならない。
一方、運命の彼は正反対だ。
シカゴのサウスサイドで育った黒人の彼は、これまで様々な危険やトラブルに遭遇してきた。
彼が回避できたのは、運だけではない。
彼が慎重に、そして正しい判断をしてきたからだ。
突然殴られても、銃を突きつけられても、冷静に対応する彼を見て思った。
ある日のことだ。
授業を終えて帰宅、部屋の扉を開けると、かわいらしいアフロの男の子が、彼の隣にちょこんと座っていた。
小学生6年生くらいかな?
「ハロー!」
声をかけると、にっこり笑って、挨拶をしてくれた。
彼の息子で、パパに会うために、シアトルから遊びに来たらしい。
息子は、パパに似て背が高く、ライトスキンだ。
息子がシアトルで暮らしていることは知っていたけれど、ママが白人だとは知らなかった。
というか、ママが黒人か白人か、なんて考えたこともなかった。
息子はまっすぐな感じで、とてもかわいい。
子供は大好きだけれど、このくらいの年齢の男の子と何を話せばいいのかわからない。
しかも英語だし。
5歳くらいまでなら、一緒に走り回ったり、怪獣ごっこでもして、夢中にさせる自信があるんだけどなぁ。
どうやってコミュニケーションを取ったものか・・・
少しナーヴァスになったけれど、そんな心配は無用だった。
紹介しただけで、一緒に行動する気は、さらさらないようだ。
彼は、親子の時間を満喫した。
ご飯を作っても二人分で、私が空腹かどうかも聞かれない。
出かけるときに、声をかけられることもない。
普段とほぼ同じ。
違いと言えば、いつもは1対1だけれど、今回は2対1になっただけだ。
とはいえ、一緒に行動しようと言われたいわけでもない。
とりあえず、透明人間になったつもりで生活することにした。
何日目かの夜、帰宅した彼が言った。
「息子を、おばさんが入院してる病院に連れて行ってん。
でも、チューブにつながれてる姿を見て怖がったから、すぐに帰ってきた」
「ふーん、そうなんや」
おばさん・・・?
おばさんが入院していること以上に、おばさんがいる事実に驚いた。
彼も人の子だ。
おばさんもいれば、おじさんもいる。
パパやママがいて当然だ。
・・・考えたこともなかった。
そっかぁ・・・おばさんがいたんだ。
そして、そのおばさんは、1週間後に亡くなった。
お葬式から帰って来た彼が、ボソリと言った。
「人間は死ぬ直前になったら、天国に行きたいから許しを請う」
ふむ・・・おばさんは、彼に許しを請うたのかな?
怖い顔をしているし、それ以上、何も言わないので、私もそれ以上は聞かなかった。
複雑な問題があるんだろうな。
翌年、帰宅すると、少年になったアフロボーイがベッドの上に座っていた。
「ハロー!」
相変わらずかわいい。
一年経過すると、彼も成長したけれど、私の英語も少しは上達した。
とはいえ、相変わらず透明人間だ。
しかも今回は、我々のアパートに宿泊したので、一週間。
「事前に言えんのかーーーっ!!!」
と思わないでもないけれど、事前に知らされたところで、断るわけでもないし、特別な準備をするわけでもない。
文句を言う必要はない。
透明人間になって、しばらく経った頃、彼がひとりで帰宅した。
「息子さー、俺のトラック、めっちゃ気に入ってるねん!
“ダディー、かっこええやん!”て!」
「・・・へー」
ニコニコ笑顔の彼を見るのは、とっても嬉しい。
もちろん、一緒に喜んであげたいのは山々だけれど、話の内容が把握できない。
「・・・トラック???」
「車買ってんで。知らんかったっけ?」
「初耳です」
どうやら彼は、マーキュリーというグレーのセダンから、フォードのトラックに乗りかえたようだ。
もちろん、私に教える必要はない。
友達なのか、恋人なのか、なんなのかはわからないけれど、二人の間に愛がないことだけは間違いない。
そんなある日、”私は彼のなんなのか?”という問題と、向き合う機会が訪れた。
キングストン・マインズに遊びに行ったときのことだ。
チコ・バンクスが、
「お前ら付き合ってるん?」
と聞いてきた。
*キングストン・マインズや、チコ・バンクスのことを書いた記事⇩
「わからん」
「え~!なんで~?」
レディースキラーのチコがびっくりしたことにびっくりした。
彼の周りには、”私はチコの何?”と思っている女性がウヨウヨいるはずだ。
「家に帰って、聞いてみるわ」
「なんやそれ~!わっはっはー!」
早速、聞いてみた。
「チコに”お前ら、付き合ってるん?”て聞かれたで。なんて答えたらええ?友達?ガールフレンド?」
彼が、チラッと私の顔を見て言った。
「なんとでも」
・・・おもしろいっ!!!
そんな答えがあるんだ。
正直すぎて腹も立たない。
ボーイフレンドでも、友達でも構わない。
ということで、同居人と思うことにした。