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【シリーズ第48回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 ストリートに駐車している私の愛車、トヨタ・カローラに乗り込んだ。
 ドアを閉めると、

 ドスン! 

 ん???聞きなれない音だ。

 振り返ると・・

 「えーーーーーっ!!!!!

 うそーーーーーっ!!!!!

 リアウィンドウがないーーーーーーーっ!!」

 
 意味がわからない。

 目線を下げると、後部座席にガラスが、こんもり積もっていた。
 粉々だ・・・。

 なんで???

 どうして、ドアを閉めたら窓が割れるの? 

 車の外に出てもう一度確認した。
 やっぱりガラスがない。

 まるでコントだ。

 さっぱりわからないけれど、このまま放置できないことだけはわかる。
 ほうきとチリトリ、窓をカヴァーするためのビニール袋とテープを取りに戻った。

 部屋の扉を開けると、起床した同居人がベッドに座っていた。

 「車の扉を閉めた途端、粉々になったリアウィンドウがシートに降ってきてん!!!」

 「・・・誰かが夜中にバットかなんかで割ろうとしたんやろ」

 ちらりと私の顔を見ると、そう言った。
 びっくりするほど驚かない。

 なるほど・・・扉を閉めただけで、窓が粉々に割れることはない。
 窓を割られたというアイデアはなかった。

 「でも、割れてなかったで!」

 「割れんかったんやろ。
 そんなに簡単に割れるもんじゃないで。
 割れる前に誰かが来たのかもしれんし」

 ふーん・・・腑に落ちない。

 「でもでも、車に何も置いてないで。
 なんで、割ろうとしたんやろ?」

 「盗みが目的じゃなくて、窓を割りたかっただけやろ。
 クレイジーな奴はなんぼでもおる」

 淡々と私の質問に答える同居人。

 騒いでいるのは私だけ。
 馬鹿馬鹿しくなったので、お掃除グッズを持って、車に戻った。
 後部座席に積もった、粉々のガラスを集める。
 結構重い。
 窓全体をビニール袋で覆い、テープで止める。

 愛車の姿を遠目で見た。

 窓にビニールを貼って、走っている車は、これまでに何度も見たことがある。
 ついに、私の車も仲間入りか・・・。

哀れなマイカーの姿

 部屋に戻ると、同居人がイエローページを開き、電話をしていた。
 
 「この店に行っておいで。
 すぐに窓を入れてくれるわ。80ドル」

 「今から?」

 「今から」

 「・・・はーい。ありがとう・・・」

 私の英語で無事に修理をしてもらえるのか?
 少し不安はあるが、甘えたことを言える雰囲気は皆無だ。
 直ちに出動した。

 ビニール製のリアウィンドウをバタバタさせて、ハイウェイを走り、教えられた住所に到着した。
 店というよりも、工場のような場所だ。
 だだっ広い敷地へ入って行くと、私と同じように窓のない車が10台くらい並んでいた。

 皆、窓を割られたのか?
 窓を割られることは、この国では珍しくないのか?
 ビニール窓の答えはこれだったの?

 彼が言ったとおり、80ドルで、すぐに窓を入れてくれた。


 それにしても、彼の態度、反応はクールだった。

 「ここは治安が悪い」

 と、以前から言っていたので、

 「ほらみろ」

 と、思っていたのかな?

 私が住んでいるオークパーク市は、建築家のフランク・ロイド・ライトの建築物や、作家のアーネスト・ヘミングウェイの生家があることで有名だ。
 小さいけれど、古く、趣のある町だ。

 しかし、オークパーク市は広い。
 私のアパートから南へ2ブロック行くと、アルカポネの本拠地で有名なシセロ市がある。
 アパートの前の大通りを東に超えると、”治安が悪い”で有名なシカゴ市のウェストサイドだ。 

 引っ越し当初、近所を散策してみた。
 シセロ市、シカゴ市に足を踏み入れた瞬間、回れ右をして引き返した。
 突然、景色が茶色に変わり、店の窓や扉には、鉄格子がはまっている。
 窃盗、強盗、シューティングが多いことを意味する。
 どう考えても、散歩には不向きだ。

 それとは反対方向、シカゴ市、シセロ市を背に、北西へ進むと、閑静な、白人の住宅街だ。
 特別お金持ちのエリアではないけれど、道路には木や花が植えられ、公園には砂場やブランコもある。

 私のアパートは、治安の良い場所と、悪い場所の境界線上だ。
 今回、私は、シカゴ市からよく見える場所に車を停めていた。
 これじゃ、窓を割られても仕方ない。
 後日だけれど、ホイールキャップも、全部盗まれた。

 アパートの家賃は5百ドル。

 「破格だ!!!」

 と思っていたけれど、リスク込みの価格だった。 
 
 ちなみに、同居人はシカゴ市側に駐車する。
 オークパーク市は、ストリートパーキングが有料、シカゴ市は無料、という理由だ。 
 駐車初日、車の底に付属しているスペアタイアが盗まれた。
  シューティングの音が聞こえて、車から出られないことも数回あった。

 「オークパーク側に駐車したら?」

 「俺ら黒人のために、何もしてくれへんのに、なんで市道に金払わなあかんねん。
 俺は払わん」
 
 きっぱり!

 治安が悪いとわかって、シカゴ市側に駐車する彼の理由は深い。
 わざわざ治安の悪い場所でアパートを借りた、私の車が被害に遭うのは、自業自得。
 彼の対応がクールになるのも当然だ。

 アパートの価格にも、彼の態度にも、なるほど・・・と納得した。
 

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るるゆみこ
最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートで、本を読みまくり、新たな情報を発信していきまーす!