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【シリーズ第29回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 彼が、友人の引越しを手伝った際に、ベッド、ソファ、そしてテーブルを手に入れてきた。

 この三点セットにより、私の部屋は、いきなり生活感のある部屋に変身した。

 何度か泊っていくうちに、彼は気付いたのだろう。

 ベッドは狭いし、テーブルも椅子もない。

 そして、この女はこれらを買う気がない、ということに。

 その昔、付き合っていた男が、冬に炬燵を買ってきたことがある。

 「あとちょっと頑張れば、快適に暮らせるのに、なんで頑張らんのか、俺にはわからん」

 なるほど・・・私にもわからない。

 でも、炬燵を頂いたら、

 「あ~!炬燵って素敵!」

 と思う。

 今回も、テーブルとソファが設置されて、

 「わーい。テーブルって便利~!」

 と思った。

 けれども、きっと自分では買わない。
 私の一番の快適は、掃除のしやすい家だ。
 そして、いつでも引越しできる環境でいたい。
 潜在的な意識だと思うけれど、ぴょーんとすぐに逃げられる環境が好きだ。  
 とはいえ、エアコンや家具が設置されると、やはり快適だ。

 普通の人が暮らせる環境が整った頃、彼が言った。

 「俺、ここに引っ越してこようかなー」 

 「どうぞ」

 人生初の同棲だ!

 短期間とはいえ、結婚の経験はある。

 けれども、同棲ははじめてだ!

 自分のポジションは相変わらず不明だったけれど、そんなことはどうでもいい。

 私にとっては運命の彼だし、アメリカで、しかも初めての同棲だ!!!


 同棲をはじめてしばらくすると、学校もはじまった。

 以前は郊外の短大に通っていたけれど、引越しを機に、近所のイリノイ大学シカゴ校に転校した。
 大学と言っても、大学に入るための英語のクラス(ESL)だけど。

 前の学校ではレベル5。

 転校したら・・・・・・・・・・・・・・・レベル5だった。

 学業は一歩も前進していないようだ。

 さて、今回の学校は、電車で登校できた。
 ブルーラインのオースティン駅は、アパートから徒歩2分。
 大学のあるホルステッド駅まで、たった7駅。

 大学に通いはじめてすぐの頃だ。
 その日はピカピカのお天気だった。
 授業は午前中で終わり、外の景色を眺めながら、ご機嫌で帰宅している途中、彼から電話がかかってきた。

 「はろ~🎵」



 「お前、どこにおるんじゃーーーーーーーーっ!!!!!!!!!

 電気代払ってないやろーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!

 すぐに帰って来いーーーーーーーっ!!!」



 ・・・ものすごーく怒っている・・・ことだけは間違いない。


 できれば到着したくなかったけれど、数分後には家に到着した。

 扉を開けると・・・

 遮光カーテンがひかれた部屋の中は真っ暗だった。

 その真っ暗な部屋の中に、上半身裸になった彼の姿があった。

 彼が、鬼のような顔で、私を睨んだ。
 
 汗だくだ・・・。

やばい・・・ホントに怒ってる・・・

 アパートの部屋を見せてもらったとき、

 「ガス、水道、トラッシュ(ゴミ収集)代は家賃に含まれてるから、ゆみこが払うのは、電気代だけ。電気代っていうても、20ドルくらいやで」

 「わ~い!嬉しい!」

 という会話を、チャールスと交わした記憶がよみがえる。

 *チャールスはアパートのメインテナンスを任されているおじさん⇩

 アパートの契約をする際、マネージャーから、

 「電気の契約だけ自分でしてね」

 と言われた記憶もある。

 喜んだ記憶も、契約をしろと言われた記憶もあるけれど、契約をした記憶はない。

 しなきゃ・・・と思っていたような気もする。

 契約のプロセスがわからず、そのままにしていたけれど、電気は使えるし、請求書もこない。

 「なんでかな~?」

 と思いながら、放置しているうちに、契約のことなど、すっかり忘れていた。
 


 なるほど・・・契約していないから請求書も来ないし、お金を払っていないから、電気も切られる。


 当然だ。


 この後、彼に連れられて、マネージャーの部屋へ行き、その場で契約をすました。

 さらに彼は、廊下のコンセントから、電気をひく許可をもらってくれた。

 マネージャーが貸してくれた、長~い延長コードで、エアコンとテレビが復活した。

 「テレビじゃなくて、冷蔵庫じゃないの???」

 と思ったけれど、私ひとりだったら、なにひとつ復活していないことだけは確かだ。

 電気が通るまでの2日間、暗闇でテレビだけが光を放っていた。


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