母経由おやつ
私の母は酒飲みで、本人曰く「スイーツは食べない」。
確かに間食はほぼしない。洋物のスイーツよりあんこ好きというのは聞いた。なので進んでホテルのデザートビュッフェに行くようなタイプではなかった。
そんな母でも若い頃はそれなりにスイーツ好きだったし、私のおやつにいろいろと買ってきてくれた。
私の住む田舎には昔はデパートがいくつかあったのだが、時代とともに撤退していき、古くからある地元のデパートを残すのみとなった。
その地元デパート独自のスイーツ、ベビーシューや100円ケーキが懐かしい。
ベビーシューというのは一口大のシュークリームで、量り売りで売っていたと思う。紙の箱を開けるとシュー生地の油分がフタに少し移っていた。
20個くらいだろうか、小さなシュークリームがころころと入っていて素朴なカスタードクリームがおいしかった。
100円ケーキは、今では信じられないがちゃんとしたケーキが100円均一で売られていたもの。消費税が導入される前の時代だったから本当に100円ぽっきりでかなりお得!遅い時間に行くと売り切れていた。細かく見るとスポンジやクリームの質は専門店に劣るが、大きさと味は申し分なかった。ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキ、チョコケーキなど種類も豊富だった。
特に好きだったのはチーズケーキとチョコケーキ。チーズケーキはハマりすぎてそればかり母にリクエストしたので、食べ過ぎて逆に少し苦手になったほどだ。チョコケーキはチョコ味のスポンジとクリーム、その上に今ではあまり見かけなくなったがチョコレートの削り節というか…鉛筆の削りかすみたいな形のフレークが載っていて、さらに上から粉糖がかかっているものだった。これも食べている最中の写真が残っているほどよく食べていた。
小学校2、3年の頃に第一次ワッフルブームとスイートポテトブームがあった。
90年代の終わり頃ベルギーワッフルが流行ったことがあったがそれよりもっと昔、85年頃にもワッフルがもてはやされたことがあったのだ。
その時のワッフルとは円形の柔らかいワッフル生地にクリームやフルーツを挟んで半分に折りたたみ、手にもって食べられるものだった。繁華街のアーケードの一角に小さなお店があったが、いつのまにかブームが廃れてお店もなくなった。
スイートポテトは、社会的ブームを起こしたスイーツではなかったかもしれない。巷にあふれていて家庭でも作れるお菓子だった気もする。それが前述の地元のデパートのパン屋さんで売っていたと記憶している。さつまいもと言えば焼き芋かふかし芋、あとは和菓子しか知らなかった私には、スイートポテトは衝撃だった。ミルクとバターの風味がさつまいもと溶け合い、表面のテカテカな皮と底の香ばしいねっとり感、それらに挟まれた真ん中部分のほくほくな食感。昔のお菓子は大きかったから、食べ応えもあった。
それから少し経って小学校高学年の頃、ミスドやダンキンドーナツといったドーナツもよく母が買ってきていた。
ミスドの景品が全盛期だったと言ってもいい。原田治や玖保キリコのグッズがもらえた時代だ。原田治のキャンディボックスや重箱はよく使っていて、運動会の時にお弁当を入れるのに重箱を使っていた。ある世代から上の家庭には結構残ってるんじゃないだろうか。今、ミスドの原田治グッズを懐かしく思う人は多いようだ。
玖保キリコは87年頃ブームになり、「いまどきのこども」のマンガや文房具などは私も持っていた。ゆるかわいいの走りじゃないだろうか。渋めのデザインで、大人が持っていても違和感ないセンスの良さだった。ミスドとコラボした時はグッズは多くなかったと思うが、期間限定でペーパーバッグや箱もその仕様で可愛かった。
ダンキンドーナツが地元にできたのはミスドのずっとあとだ。当時の人気アイドルWinkがCMしていた。私はミスドよりダンキンドーナツの方がクリームが好みだった。でも、いつの間にかダンキンドーナツはなくなってしまった。
同じ頃、モロゾフの量り売りクッキーを買っていた。モロゾフは例の地元のデパートにカフェも入っていて、パフェやワッフルを食べに連れて行ってもらった。クッキーはカフェの傍らで量り売りしていて、マカダミア、アーモンド、チョコチップなどのアメリカンタイプのザクザク系クッキーだった。ナッツのしょっぱさとクッキーの甘さが絶妙でおいしかった。このクッキーはときどき食べていたが、小学校の卒業式のあと買ってもらったことが記憶に残っている。特別な日だったからだろうか。好きだったのに、これもいつしか姿を消してしまった。(※数年前からまた復活しているようだ)
そしてモロゾフといえばプリン。どっしりしたガラスの器に入っていて、うちのばあちゃんがよく器を集めて再利用していた。カスタードが有名で今もあるが、昔はチョコプリンもあった。これも今はもうない。私の好きなものは悉くなくなってしまう。
昨今のステルス値上げでスーパーで買えるお菓子すら小さくなってしまった。ロングセラーのお菓子は昔を知っているからこそ、今食べると何とも言えない気持ちになる。
もともとのお菓子のサイズは、子どもにはちょっと大きいくらいだった。そこに夢があった。今はメーカーが味の改良に精を出していてロングセラーお菓子は味が変わっているのだろう。年と共に私の味覚が変わったことを差し引いても、美味しくなったと感じるのはほんの一握りで、ほとんどは人工的な風味や食感ばかり進化して中身がスカスカな印象だ。昔を思い出したくて食べてみると、「あれ?こんなんじゃなかったよね?」と思う。時代に合った味なのかもしれないが、いかにも夢のない今の時代を反映しすぎていて食べた後いくらか虚しさが残る。
最初からこれしか知らない今の子どもにはわからないのだろう。そして今の子にとってはこれがおいしいのだろう。逆に今の子が昔の味を知ったらどう感じるのだろうか。
余談だが、料理は上手なのにお菓子は作らない母と、小さい頃にクッキーを作ったことが一度だけある。
おそらく母の気まぐれだったのだろう。本当に簡易的なクッキーでわざわざバターなんて使わずマーガリンで代用し、オーブンではなくトースターで焼いた。かる~い味と食感だったがそれはそれで子どもにはおいしかったし、こんなふうに思い出になっているのできっと楽しかったのだろう。ガラスの密閉容器に入れて、父にも食べてもらった。
その後中学生の頃にこの簡易クッキーを思い出して再現してみたら、あまりにシンプルなせいか全く同じような仕上がりになった。「そうそう、この味」と思ったものだ。
恐れ多くも友達におすそ分けしたら「おいしい」とは言ってくれたが、本心はどうだったのか…。
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