『狼男だよ』その2
『狼は死なず』
アダルト・ウルフ🐺二作目。
世界を覆う本格的な諜報戦に巻き込まれる犬神明。強大なパワーを持つ人類の暗部との死闘の開幕です。
謎の人物からコンタクトを受け、出向いた場所でケイと名乗る美少女から見せられたのが、ポリ製ケースに入れられた、「十一文の靴」ほどもあるゴ○ブリだった…。
唯一の弱点であるゴ○ブリの化物を目にした明アニキの狼狽ぶりが面白い
神奈川県内の米軍基地において、極秘にCB兵器(ケミカル・ウェポン、バイオロジカル・ウェポン)の研究が行われており、その陰謀を暴いて欲しい…。
依頼主は中国の諜報部であり、登場した林石隆といきなりのバトル❗️
この林石隆さんは、『死霊狩り』の林さんとも『少年ウルフガイ』の林さんともおそらく別人で、『超革中』の林さんとは間違いなく別人で、記憶にある限り、シリーズへの登場はこれのみになりますね。
このリーグでは、中国諜報部に虎4のような不死人間の部員は存在せず、犬神明に関しても、その特異性は把握しつつ、はっきり人狼の存在を確信していた訳ではなかった。
毒ガス、細菌、病原菌ウイルス等のCB兵器は、派手でない分、じわじわ心を侵食してくるような恐ろしさがあります。
令和的視線で見ると、現実的に世界を覆っているあの疾病や、それに伴うお注射などが思い浮かびますが、まあ、あまり触れずにおきます。
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余談その1 「十一文の靴」というサイズ表記、平成ジャンプ世代にはよく分からないのですが、換算すると 26.4 センチと、だいたい和田アキ子サイズですね。
余談その2 国内の秘密CB兵器研究所、所長の名前が「ポール・E・マッカートニー大佐」と、某超有名バンドのベーシストと同じ名前なんですよね。69年当時、ビートルズは既に有名でしたから、おそらく著者のおふざけだと思います。間違ってもポールがCIAと関わりがある予言とかではないと思います。
続く『狼狩り』には、マネージャーのブライアン・エプスタインの名前もチラッと登場します。
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明のアニキに拾われて、居着くことになってしまうチコちゃん、ちゃんと読んで見たら可愛いですね。アニキの女性への接し方、平成ジャンパーとしては参考になるわ~。ティーンの頃には理解できなかった微妙な記述がよく分かって、めちゃ共感できる。
クスリが効いて気持ちよくラリっていたフーテンの少女が、アニキと生活をともにする事で、めざましい変化を遂げてゆく様子は、ちょっと感動的です。アニキの述懐により、そんな女の子が過去にも沢山居たことがわかります。
そして、甲斐甲斐しい世話女房化した女の子を可愛いと思いつつ、苦い自責の念を噛み締めるアニキの気持ちも、しみじみ分かってしまう。
「どんな女も狼男を亭主に持つことはできない」
この諦念の裏には、きっと色々な別れがあったんでしょうね。
一方のヒロイン、中国諜報部の美女ケイも、どこか哀しみの影を感じさせる女性でした。
中わけロング、引き締まった肢体で黒目がちの瞳…という所から南沙織など連想してしまいますが、ロングヘアはウィッグであることが後で分かります。
諜報員だけあって、内面を覗かせない太々しさがあり、格闘もかなりのもので、明アニキの急所を強打して、ダウンさせてしまう程ですが、でも不思議なことにアニキは、初見から彼女に惹かれていたようなんですよね。単に容姿を好ましく思ったというだけではなく。
超人的な擬態で、人狼の子を孕むために、抱かれることに成功するケイですが、それが露見した時のアニキの怒りがまた優しく、暖かかった。
“明語り”と名付けたいアニキの怒り。
空襲で母と死に別れて以来、孤児として生き抜いてきたアニキの孤独がひしひし感じられる。
昨今すっかりジェンダーレスで、「男らしい、女らしい」という形容でさえ、下手したら差別と取られかねない世の中ですが、やっぱり確固とした父性、母性って必要だよなって、アニキの優しさを見てて思います。あんな父ちゃんが欲しいよ。
ケイが妊娠に成功したかは明示されませんが、おそらく妊娠してたんだろうと思います。
彼女が漂わせている芳香。香料ではなく、彼女自身が発する香りということですが、何度か印象的に記されるこの“芳香”はキーワードなのかなと。
漢方薬を用いて(強壮のため、妊娠しやすいように?)体質改善をしていた。もしくは、希釈された不死人種の遺伝子を持っていた?
明アニキは犬並みの嗅覚の持ち主ですから、他人の体臭からかなりの情報を読み取れているはず。
ケイの芳香からは、少なくとも、“相性の良さ”は瞬時に感じたんだと思います。常人でも、無意識のうちに香りが好悪の基準になっていると言いますし。
アニキがCB兵器の暴露記事を持ちかける、牧野編集長、すっかり失念していたんですが、それまでのアニキにとって、かなり重要な人物だったんですね。
記事の書き方のイロハを教わって、彼との関わりを断たないために他社の専属ライターの誘いを蹴ってしまうという。
アニキはきっと、共闘…少なくとも共感してくれる同志が欲しかったんだと思います。日米関係の根幹を揺るがしかねない暴露記事を、メジャー誌に載せられないことは最初から分かっていた。
しかし、牧野はあっさり怖気をふるって、身を引いてしまう。十年以上にわたる信頼は失われ、その寂しさもあって、直後のケイの誘いに乗ってしまったのかもしれません。
機関によって拐われたチコを救出するため、明は米軍基地に侵入する。囚われの身となり、加えられる壮絶な拷問にも耐え抜き、屈強な米兵たちに減らず口をたたいて見せる。
おそらくここで、 CIAは人狼の不死性に気付いて、既にアイデアは存在したのかもしれない“不死鳥作戦”へと繋がってゆく。拷問担当者は途中から研究者へと変わり、人体実験が加えられる。
米国、中国、卑劣すぎる両陣営の諜報戦…。
ついに捕らえられたケイも、争乱の中で銃弾を浴びて、絶命してしまう。
「あなたの赤ちゃんを産みたかった……」
彼女の最後の言葉は、本心だったと思います。
根っからの諜報部員だった彼女も、犬神明の気高い魂に触れて、確かに変化していた。
明アニキが惹かれるにはそれだけの理由がある。
きっと彼女も、暖かい狼の救済を切実に求める、悲しみを背負った女性だったのでしょう。
そしてバチガミ化したアニキが、CB兵器研究所を破壊し尽くす訳ですが、この辺りはあっさり流されていて、著者がアクションにさほど重きを置いていない事が分かります。
CIAとの死闘の幕開け。
物語はフルスロットルで加速してゆきます。