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狼のバラード 『地底の狼男』

「狼のバラード」

ノンノベル版ウルフガイ2巻。

ノンノベルで読み進めるの初めてなんですが、やっぱり『狼よ、故郷を見よ』のタイトルの方が良い感じに思えますね。

収録作品の違い、ちゃんとWikiにまとめてくれてました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/アダルト・ウルフガイ


『地底の狼男』

『狼狩り』篇で八王子に生き埋めになった犬神明のアニキが、また地下で活躍する羽目になります。アニキ、冥府の王ハーデスと繋がりがあった時期なんでしょうか。旧日本軍の暗部の精算とか。

ウルフガイ連作の四作目にして、どんどん筆が乗って面白くなってきます。平井和正、第一の作家的ピークに向かって疾走してゆく印象です。

オープニング、CIAの追っ手たちとの激闘シーンは、スパイ映画を想わせますが、ヒーローが雪山でパンツ一丁なシチュエーションはなかなかないと思います。

CIAと熾烈な闘争劇を繰り広げるアニキの前に、第三の組織、「内閣情報室」が現れる。米国CIAからの保護を条件に、彼らはある依頼を持ちかける。

アニキがしばらく幽閉される大邸宅ですが、怪しいオモチャから銃器まで各種取り揃え、娯楽ホールをはじめ拷問室やら監禁室まであり、エリートの皆さま御用達のとっても素敵な施設になってますね。

第一作の「キモ爺」もそうでしたが、エリートたちの妖しい秘儀ってデフォルトなんですかねえ。平井先生、何か具体的にご存知だったんでしょうか…。

交渉役として現れる二人のうち、まず高級官僚の井岡、鈍感で恩着せがましい、親方日の丸の低能野郎な描写が秀逸すぎる😁

高飛車にCIAからの保護を申し出る井岡に、平然としっぺ返しを食らわすアニキがめちゃカッケー😆 雪山で銃で打ちまくられて半死半生の眼に遭ったのに、狼の誇りはちっとも損なわれちゃいねえ❗️

そして、内情(内閣情報室)の矢島、登場~❗️❗️

人類の暗部を象徴するキャラクターである矢島さん、真に優秀な人材であり、なかなか内面を覗かせません。凄みのある美貌ということですから、草刈正雄クラスでしょうか。

先頃、アニキが壊滅して見せた米国基地内のCB兵器研究施設ですが、日本にも「対CB兵器の研究部門」が存在した。

「攻勢防御」の芽を多分に孕んだ「専守防衛」であることをアニキは瞬時に見抜く訳ですが、その辺りの均衡の危うさを十分に把握した上で、ある重大なトラブルが起こったことを矢島は告げる。

研究所内で改良(改悪)を加えられたペスト菌が、あるマッドサイエンティストによって盗み出された❗️ もしそれが振り撒かれると、日本国民は絶滅の危機に瀕する…。

パンデミックものの白眉はなんと言っても小松左京御大の『復活の日』ですね。リアル世界での疫病大流行を受けて最注目され、SF的視点の先進性を再認識しました。

もしリアル世界での人為的なパンデミックを想像するなら、金儲けや、アフターパンデミックの世界を鑑みると、病原菌とその後のワクチンとセットになってたりするのかな~とか思います。(※ あくまで想像として😀)

ダン・ブラウン著、ロバート・ラングドンシリーズの第四作『インフェルノ』もパンデミックものでしたが、あの結末はちょっといろいろな意味で怖かったですね…。ネタバレを言うと、世界中に影響する「不妊ウイルス」が放出されてしまう…。ラングドン教授も結局それを防げない。

「人口爆発」を憂慮するエリート達の組織が存在する?

「イタチごっこさ。そのうちに戦争になって共倒れになるんだ……遠からず人類絶滅の日は到来するね」

とは明のアニキの言葉ですが、フェイズが変わって、分かりやすく戦争で○しあう世界ではなくなってきているのかも知れないですね。

マッドサイエンティスト葛城良平の娘、まほとの関わりも微笑ましい。

「過去、おれの顔を見て怖がった女はだれも存在しない」って、アニキの面目躍如ですね。この言葉って、何気ないけれどすごく深いと思う。

内情によって監禁されていたまほに温情をかけ、すぐに待遇の改善を要求する。あまり育ちのよくなさそうな少女を決して馬鹿にせず、逆に愛情不足な境遇を思い遣る…。アニキ、あんた暖ったけ~よ。

ペスト菌を奪還するために、すぐにでも捜査に出んとするアニキに、なぜか矢島は良い顔をしない。「水道局との折衝」とか、よく分からない理由で引き伸ばそうとした彼の思惑が、後で明らかになります。

月齢十二日。なんとネズミに掘らせた穴からまほが誘拐(救出?)されるという事態に及んで、ついにアニキたち一行は葛城良平が潜むという下水道の深部へ、捜索に向かう。

何らかの意図を持っているかのように、少しずつ姿を見せる巨大ネズミの群れ…。尻尾までの全長、優に1メートル以上って、怖すぎる…。

一匹でもやめて欲しいのに、数千匹の奴らの群れが一気に牙を剥き、アニキ以外の「決死隊」のメンバーは見る間に無残な赤黒い肉塊に。やめて~っ。

下水道は旧日本軍の地下施設へと繋がり、ついに辿り着いた葛城良平は、「ネズミの王」そのままの怪異な存在でした。

アニキに向かって、「人類文明自体が悪の根元」と、蕩々と語ってみせる内容は、至極真っ当なものでしたが、“自然の精霊”を自称するその姿は醜怪極まりない。

自分の娘であるまほをあっけなく惨殺し「わしの血族はネズミだけ」と嘯く葛城に、アニキは激怒する。

「きさまの凶悪さ邪悪さは人間以外の何者でもないぜ! 人間だけが邪悪な喜びを持って殺すことができるんだ!」

狼の誇り! 大自然の精霊!

崇高な理念とかではなくって、一人の女の子の為に激怒するアニキ、ほんとカッケ~っすね! 激怒のあまり、作中で初めて見せる獣人化現象ですが、結果的にこの怒りが、アニキの命を救うことになる。

ペスト菌持ち去りの件は、アニキを引き込む為に用意されたフェイクであり、本当の脅威は、葛城が「遺伝子操作」で作り出したネズミ達だった。

遺伝子操作での生命の改変、この時点で既に出てきてる❗️

「人類の天敵」としてつくり出された、巨大かつ高知能なネズミ…。確かに「何処にでも入り込める高知能の兇悪禽獣」って恐怖感ハンパなくって、逆に虎とかの方が対抗手段ありそうですよね。しかも繁殖力旺盛で、倍々式に増え続けるって…。

ウルフ対ネズミのバトルが開始するや否や、数千匹のネズミとその親分葛城は、苦悶にのたうちまわって死の痙攣に掴まれる。

内情の矢島が散布した神経ガス! 初めから一挙に巨大ネズミを殲滅する計画だった!

おそらく矢島は、アニキを死なせたくなかった  — 無論、人狼として利用価値が大きいから—  為、月齢が満ちるまで捜索に行かせたくなかった。絶頂期の人狼でないと、神経ガスには耐えられないし、巨大ネズミの大群にも対抗しかねると考えていたんでしょう。

アニキの命を救ったのは「不屈の精神」に他ならないと思います。

今さら精神論かよ…って失笑する向きもいらっしゃるでしょうが、いやいや、令和のこの時代、竈門炭治郎の例を引くまでもなく、一周回ってまたそこに回帰してる気がしませんか?

月齢十二日で神経ガスって、諦めてたら終わってたんだと思います。しかしアニキは、メタモルフォーゼして賦活化していたこともあったのでしょうが、矢島への怒りをバネにして、全身を焼く苦悶に耐えながら死地を抜け切った。

最初にネズミに襲われた時も、数千匹の巨大ネズミとか、絶対に無理目じゃないですか。怖いじゃないですか。しかしアニキは寸毫の迷いも見せず、逆に闘志を燃え立たせて葛城を追い続ける。

アニキ、かっけすぎる…。

黄金の魂、これなんすね❗️

“意思”と“信念”が最も大切であること、改めて教えてもらいました。


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